監査実務から税務実務への道⑤-監査法人から独立開業する際の注意点を見逃していないか?

Q 監査法人から独立開業を考えるうえで注意すべき点を教えてくれますか?

A 独立後に一人で経験できる税務業務の幅は限られているため、大手税理士法人を経験しておいた方が良いと考えます。

解説

公認会計士が独立した場合、税務業務が主軸となります。

公認会計士の独占業務は、監査証明業務です。
監査法人という組織に所属して行っているのは、大会社が適正な会計処理をし、正確な財務情報を発表していることをチームで証明する業務です。

個人で独立開業する場合、主要クライアントは中小法人となるとともに、提供するサービスは税務業務が中心となります。

税務業務のサービスラインは、期中の月次往査と税務相談、決算業務、法人税申告書の作成と申告代行業務です。

監査法人経験しかない公認会計士にとって、税務領域は未経験かつ専門外の分野です。

公認会計士が税理士登録を行うタイミングは、監査法人を辞めて税務の世界に入る時です。

公認会計士が監査法人に所属して、監査証明業務を行う場合には、税理士登録はしていません。

税理士登録を行う際に約18万円、資格維持に年間12万5千円かかりますので、個人の負担で税理士登録し、資格を維持することは困難です。
(監査法人は業務に必要のない税理士登録の資金負担はしてくれません。)

多くの公認会計士が税理士登録を行うのは、監査法人を辞めて税務の世界に入る時です。
会計事務所での税務経験を経ないで、監査法人からそのまま独立開業する公認会計士は多く存在します。

当然ながら、そのルートを経た公認会計士は「税理士登録」したにも関わらず、税務実務が分からない「肩書きだけの税理士」です。

独立したての公認会計士の多くは、税務業務が不得手です。

監査法人勤務から直接独立に向かった公認会計士は、概ね税務業務が不得手です。

もちろん、税務実務を知らない状態から独学で勉強し、実務経験を一つずつ積み重ねることで、税務業務を身に付けていけます。

法人税申告書の作成業務も、申告調整のほとんどない中小企業のものであれば、2・3社経験して覚えてしまえば、実務レベルとしては問題ありません。

とはいえ、会計事務所で何社も申告を重ね、税務調査対応をしたり、数々の税務論点を整理してきた本物の税理士と比べると、自信を持って税務の専門家であると言い切れる公認会計士・税理士は少ないように感じます。

一人で経験できる税務業務の幅は限られています。

中小法人の難易度の低い法人税申告業務を主軸に、専門家として引退まで繰り返し続けていくのでしょうか?

自分が専門家として歩んでいく税務の世界において、独学で突き進められるレベルの実務の道は、触りの世界でしかありません。
その世界ですぐ目の前に立ちはだかるのは、毎年同じことを繰り返す、単調で簡単な業務であり、飽きとの戦いです。

独立後は、長期に渡って歩み続ける独立人生が待っています。
独立してから組織に入り直すことも可能ですが、そんなつもりで独立する人は少ないと思います。

監査法人からすぐに独立するのではなく、大手税理士法人に転職して、一通り(法人税申告、所得税申告、相続税申告、贈与税申告)の税務申告経験を得るとともに、その分野の本物の専門家と接してから独立することをお勧めします。

大手税理士法人であれば、様々な税務領域の専門家との出会いがあるはずですので、その後の独立に向けてプラスになることは間違いないと思います。

独立前に、一度は大手税理士法人を経験しておくことをお勧めします。
様々な税務領域を経験し、本物の税務専門家と数多く接しておくことで、税務専門家としての幅を作れると思います。