組織再編税制③-株式移転直後に株式移転完全子会社から株式移転完全親会社に利益剰余金を原資とする配当をする場合の会計上の留意点を見逃していないか?
Q上場会社がHD体制を構築するために、株式移転によるテクニカル上場を検討しています。株式移転直後に株主に配当を行う必要があるのですが、留意事項はありますか?
A HDで収益を獲得するまでは子会社からの利益剰余金配当であってもHDの利益剰余金は増加しませんので、HDは株主に対してその他資本剰余金配当を行うことになります。
解説
株式移転による親会社の会計仕訳上、子会社株式の取得の相手勘定は、資本金及び資本剰余金となるため、利益剰余金の計上はありません(企業結合会計及び事業分離基準に関する適用指針258項、239項)。また、株式移転直後の株式移転完全子会社から株式移転完全親会社への剰余金の配当は、親会社においては会計上、子会社株式のマイナス処理となり、利益剰余金の増加とはなりません。したがって、親会社が収益を獲得して、利益剰余金が生じないうちは、HDから株主への配当はその他資本剰余金を原資とする配当となる点に留意が必要です。
企業結合会計及び事業分離基準に関する適用指針258項
258. 単独株式移転により株式移転設立完全親会社を設立した場合の株式移転設立完全親会社 の個別財務諸表上の会計処理は、親会社と子会社が株式移転設立完全親会社を設立する場 合の株式移転完全子会社株式(旧親会社の株式)の取得原価の算定(第 239 項(1)1参照) に準じて処理する。
企業結合会計及び事業分離基準に関する適用指針239項
239. 株式移転設立完全親会社の個別財務諸表上の会計処理は次のように行う。[設例 28]
(1) 株式移転完全子会社株式の取得原価の算定
株式移転設立完全親会社が受け入れた株式移転完全子会社の株式(旧親会社の株式と 旧子会社の株式)の取得原価は、それぞれ次のように算定する。
①株式移転完全子会社株式(旧親会社の株式)
ア 原則的な取扱い 株式移転完全子会社株式(旧親会社の株式)の取得原価は、株式移転完全子会社
(旧親会社)の株式移転日の前日における適正な帳簿価額による株主資本の額に基
づいて算定する。
イ 簡便的な取扱い
株式移転完全子会社(旧親会社)の株式移転日の前日における適正な帳簿価額に よる株主資本の額と、直前の決算日において算定された当該金額との間に重要な差 異がないと認められる場合には、株式移転設立完全親会社が受け入れる子会社株式
(旧親会社の株式)の取得原価は、第 121 項(1)2と同様に、株式移転完全子会社 (旧親会社)の直前の決算日に算定された適正な帳簿価額による株主資本の額によ り算定することができる(第 404-3 項参照)。
②株式移転完全子会社株式(旧子会社の株式) 株式移転完全子会社株式(旧子会社の株式)の取得原価は、株式移転完全子会社(旧
子会社)の株式移転日の前日における持分比率に基づき、旧親会社持分相当額と非支 配株主持分相当額に区分し、次の合計額として算定する。
ア 旧親会社持分相当額については、株式移転完全子会社(旧子会社)の株式移転日
の前日における適正な帳簿価額による株主資本の額に基づいて算定する。
イ 非支配株主持分相当額については、企業結合会計基準第45項により、取得の対 価(旧子会社の非支配株主に交付した株式移転設立完全親会社の株式の時価相当 額)に付随費用を加算して算定する。付随費用の取扱いについては金融商品会計実 務指針に従う。株式移転設立完全親会社の株式の時価相当額は、株式移転完全子会 社(旧子会社)の株主が株式移転設立完全親会社に対する実際の議決権比率と同じ 比率を保有するのに必要な株式移転完全子会社(旧親会社)の株式の数を、株式移
転完全子会社(旧親会社)が交付したものとみなして算定する。
なお、株式移転設立完全親会社は、受け入れた株式移転完全子会社(旧子会社)以外
の子会社(中間子会社)が有していた株式移転完全子会社株式(旧子会社の株式)の取
得原価についても、旧親会社持分相当額(2ア参照)に準じて算定することとなる。 (2) 株式移転設立完全親会社の増加すべき株主資本の会計処理
株式移転設立完全親会社の増加すべき株主資本は、払込資本(資本金又は資本剰余金) として処理する。増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本 剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する。