非上場株式の評価㉒-株式移転後に子会社の不動産を分割型分割により親会社に移転して類似業種比準方式を適用する場合に、親会社の業種変更による類似業種比準方式の不適用、子会社の純資産価額の計算で営業権が生じる可能性を見落としていないか?
Q評価対象会社は株式移転完全親法人であり、株式移転後3年が経過した時点で総資産の90%が子会社株式(10%が現預金)であるため、株式等保有特定会社に該当しています。この度、子会社の保有する本社不動産等を分割型分割により親会社に移転することを想定しています。分割後は評価対象会社の総資産に占める株式等保有割合が47%となることから、類似業種比準方式(会社規模:小会社)の適用が可能となる予定です。類似業種比準方式を適用する際に留意点はありますか?
A評価対象会社が初めて不動産事業を始める場合には、分割後(開業後)3年は類似業種比準方式の適用はできません。また、株式等保有特定会社の判定上、分割後の子会社株式の評価方式が純資産価額となることを想定している場合には、営業権の発生に注意が必要です。
解説
分割型分割により不動産事業を親会社に移転し、初めて不動産賃貸事業を始める場合には、親会社は開業3年未満の会社に該当し、移転後(開業後)3年は類似業種比準方式の適用はできません。この状況を回避するためには、子会社から親会社への将来の不動産移転の可能性を見通して、株式移転時から親会社が小規模でも不動産賃貸業を開業しておくことが考えられます。小規模であっても不動産事業開始から3年が経過していれば、本格的に子会社への不動産賃貸を開始したタイミング(不動産事業の分割型分割のタイミング)で、類似業種比準方式の適用が可能となります。
分割型分割後の子会社株式の評価において、不動産事業の分割により純資産が減少し「類似業種比準方式>純資産価額」となることも想定されます。この点、減少した総資産の割に高い収益力を有する場合には、営業権が生じることも考えられます。営業権の発生により「類似業種比準方式<純資産価額」となることも想定して、親会社が株式等保有特定会社に該当しないかを検討しておく必要があります。
財産評価基本通達189-4(土地保有特定会社の株式又は開業後3年未満の会社等の株式の評価)
189((特定の評価会社の株式))の(3)の「土地保有特定会社の株式」又は同項の(4)の「開業後3年未満の会社等の株式」の価額は、185((純資産価額))の本文の定めにより計算した1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)によって評価する。この場合における当該各株式の1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)については、それぞれ、当該株式の取得者とその同族関係者の有する当該株式に係る議決権の合計数が土地保有特定会社又は開業後3年未満の会社等の185((純資産価額))のただし書に定める議決権総数の50%以下であるときは、上記により計算した1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)を基に同項のただし書の定めにより計算した金額とする。
なお、当該各株式が188((同族株主以外の株主等が取得した株式))に定める同族株主以外の株主等が取得した株式に該当する場合には、その株式の価額は、188-2((同族株主以外の株主等が取得した株式の評価))の本文の定めにより計算した金額(この金額が本項本文の定めによって評価するものとして計算した金額を超える場合には、本項本文の定めにより計算した金額)によって評価する。(平2直評12外追加、平12課評2-4外・平15課評2-15外改正)
財産評価基本通達165(営業権の評価)
営業権の価額は、次の算式によって計算した金額によって評価する。(平11課評2-12外・平16課評2-7外・平20課評2-5外改正)
平均利益金額×0.5-標準企業者報酬額-総資産価額 × 0.05 =超過利益金額
超過利益金額×営業権の持続年数(原則として10年とする。)に応ずる基準年利率による複利年金現価率=営業権の価額
(注) 医師、弁護士等のようにその者の技術、手腕又は才能等を主とする事業に係る営業権で、その事業者の死亡と共に消滅するものは、評価しない。
財産評価基本通達166(平均利益金額等の計算)
前項の「平均利益金額」等については、次による。(昭41直資3-19・平16課評2-7外・平20課評2-5外改正)
(1) 平均利益金額
平均利益金額は、課税時期の属する年の前年以前3年間(法人にあっては、課税時期の直前期末以前3年間とする。)における所得の金額の合計額の3分の1に相当する金額(その金額が、課税時期の属する年の前年(法人にあっては、課税時期の直前期末以前1年間とする。)の所得の金額を超える場合には、課税時期の属する年の前年の所得の金額とする。)とする。この場合における所得の金額は、所得税法第27条((事業所得))第2項に規定する事業所得の金額(法人にあっては、法人税法第22条第1項に規定する所得の金額に損金に算入された繰越欠損金の控除額を加算した金額とする。)とし、その所得の金額の計算の基礎に次に掲げる金額が含まれているときは、これらの金額は、いずれもなかったものとみなして計算した場合の所得の金額とする。
イ 非経常的な損益の額
ロ 借入金等に対する支払利子の額及び社債発行差金の償却費の額
ハ 青色事業専従者給与額又は事業専従者控除額(法人にあっては、損金に算入された役員給与の額)
(2) 標準企業者報酬額
標準企業者報酬額は、次に掲げる平均利益金額の区分に応じ、次に掲げる算式により計算した金額とする。
平均利益金額の区分 | 標準企業者報酬額 |
---|---|
1億円以下 1億円超 3億円以下 3億円超 5億円以下 5億円超 |
平均利益金額 x 0.3 + 1,000万円 平均利益金額 x 0.2 + 2,000万円 平均利益金額 x 0.1 + 5,000万円 平均利益金額 x 0.05 + 7,500万円 |
(注) 平均利益金額が5,000万円以下の場合は、標準企業者報酬額が平均利益金額の2分の1以上の金額となるので、165((営業権の評価))に掲げる算式によると、営業権の価額は算出されないことに留意する。
(3) 総資産価額
総資産価額は、この通達に定めるところにより評価した課税時期(法人にあっては、課税時期直前に終了した事業年度の末日とする。)における企業の総資産の価額とする。
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