グループ法人税制⑳-グループ法人税制の意図的な回避により、同族会社の行為計算否認による更正処分を受けた裁決事例を見逃していないか?
Q グループ法人税制の適用を意図的に回避した場合の留意点を教えてくれますか?
A 同族会社の行為計算否認により、当局から否認される可能性があります。
解説
グループ法人税制は、完全支配関係のあるグループ間取引に強制的に適用されます。グループ間の含み損のある不動産の譲渡についても、譲渡損益調整資産の繰延制度の適用により譲渡損が繰り延べられ、損金計上ができません。そこで、意図的に完全支配関係をなくすことで、グループ法人税制の適用を回避して不動産の譲渡損を計上した事案(平成28年1月6日裁決事例)があります。従業員1名に第三者割当増資を行い、完全支配関係をなくしたうえで譲渡取引を行いましたが、結果として、当局から同族会社の行為計算否認による更正処分が行われました。
平成28年1月6日裁決事例の要旨
同族会社である審査請求人は、グループ法人税制の繰延制度により、A社との間に完全支配関係を有したままでは、同制度の施行前に認められていた請求人・A社間の不動産取引による固定資産売却損の損金算入が認められなくなることから、請求人・A社間の完全支配関係を解消して同制度の適用を免れる目的で、本件割当増資を行ったものと認められる。
本件割当増資における株式の発行条件等は、繰延制度の適用を免れることができるかという観点から定められたものと認められ、経済的合理性の観点から、その財産状況や経営状態等を具体的に検討ないし勘案した形跡はうかがわれない。また、請求人は、約1,000名の従業員を擁する中で、本件割当増資において割当ての対象者としたのは、総務経理部長として第三者割当増資による繰延制度の適用回避に向けた立案、検討に深く関与した総務経理部長乙ただ一人であり、同人以外の従業員に対しては、割当増資の後も含め、一切割当てを行っておらず、そもそも募集の周知すらしていない。
これらの諸点に鑑みれば、本件割当増資は、経済的、実質的見地において純粋経済人として不合理・不自然な行為であるといわざるを得ず、法人税法第132条第1項に規定する「不当」な行為であると認めるのが相当である。
請求人は、本件割当増資によって請求人・A社間の完全支配関係を解消し、本件繰延制度の適用要件を不充足とすることにより、同制度の適用を免れ、本来、同制度の適用額に参入し、法人税額を減少させたものと認められる。
請求人が行った従業員1名に対して行われた第三者割当増資は、経済的、実質的見地において純粋経済人として不合理・不自然な行為であり、法人税法第132条《同族会社の行為計算否認》第1項に規定する「不当」な行為である。