非上場株式の評価㉙-同族株主から発行法人が相続税法上の時価で自己株式を取得する場合に、みなし譲渡所得課税の生じる可能性を検討しているか?

Q評価対象会社は類似業種比準方式(大会社)の適用会社です。株式集約のために複数の同族株主から自己株式取得を行いますが、相続税法上の時価で取得する場合に気をつけることはありますか?

A中心的な同族株主に該当する株主は、相続税法上の時価が所得税法上の時価の1/2未満となる場合には、所得税法上の時価により譲渡されたものとみなされるため、留意が必要です。

解説
中心的な同族株主に該当する株主の場合には、所得税法上の時価は、財産評価基本通達による類似業種比準価額(大会社)ではなく、類似業種比準方式(50%)と純資産価額方式(50%)の折衷による評価となります。「類似業種比準価額の2倍<純資産価額」である場合には、みなし譲渡所得課税の対象となる場合があるため、留意する必要があります(所得税法第59条第1項、所得税基本通達23〜35共–9(4)、所得税基本通達59−6)。
また、所得税法上の時価の1/2以上となる価額による譲渡の場合でも、同族会社の行為計算否認に該当する場合には、同様の課税が生じることとなることも、併せて留意しておく必要があります(所得税基本通達59−3)。

中心的な同族株主に該当しない株主の場合には、「相続税法上の時価=所得税法上の時価」となるため、みなし譲渡所得課税が生じることはありません。

なお、株主の属性により価額差を設け、自己株式の取得決議を複数回に分けて行う場合には、1回目の取引により売買実例ができるため、所得税法上の時価が変化する影響に注意する必要があります(所得税基本通達23〜35共–9(4))。

 

所得税法第59条第1項(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)
次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす。
一 贈与(法人に対するものに限る。)又は相続(限定承認に係るものに限る。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)
二 著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。)

 

所得税基本通達23~35共-9(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)
令第84条第3項第1号及び第2号に掲げる権利の行使の日又は同項第3号に掲げる権利に基づく払込み若しくは給付の期日(払込み又は給付の期間の定めがある場合には、当該払込み又は給付をした日。以下この項において「権利行使日等」という。)における同条第3項本文の株式の価額は、次に掲げる場合に応じ、それぞれ次による。(昭49直所2-23、平10課法8-2、課所4-5、平11課所4-1、平14課個2-5、課資3-3、課法8-3、課審3-118、平14課個2-22、課資3-5、課法8-10、課審3-197、平17課個2-23、課資3-5、課法8-6、課審4-113、平18課個2-18、課資3-10、課審4-114、平19課個2-11、課資3-1、課法9-5、課審4-26、平26課個2-9、課審5-14、平28課個2-22、課審5-18、令元課個2-22、課法11-3、課審5-12、令2課個2-12、課法11-3、課審5-6改正)

(1) これらの権利の行使により取得する株式が金融商品取引所に上場されている場合 当該株式につき金融商品取引法第130条の規定により公表された最終の価格(同日に最終の価格がない場合には、同日前の同日に最も近い日における最終の価格とし、2以上の金融商品取引所に同一の区分に属する最終の価格がある場合には、当該価格が最も高い金融商品取引所の価格とする。以下この項において同じ。)とする。

(2) これらの権利の行使により取得する株式に係る旧株が金融商品取引所に上場されている場合において、当該株式が上場されていないとき 当該旧株の最終の価格を基準として当該株式につき合理的に計算した価額とする。

(3) (1)の株式及び(2)の旧株が金融商品取引所に上場されていない場合において、当該株式又は当該旧株につき気配相場の価格があるとき (1)又は(2)の最終の価格を気配相場の価格と読み替えて(1)又は(2)により求めた価額とする。

(4) (1)から(3)までに掲げる場合以外の場合 次に掲げる区分に応じ、それぞれ次に定める価額とする。

 イ 売買実例のあるもの 最近において売買の行われたもののうち適正と認められる価額

 ロ 公開途上にある株式で、当該株式の上場又は登録に際して株式の公募又は売出し(以下この項において「公募等」という。)が行われるもの(イに該当するものを除く。) 金融商品取引所又は日本証券業協会の内規によって行われるブックビルディング方式又は競争入札方式のいずれかの方式により決定される公募等の価格等を参酌して通常取引されると認められる価額(注) 公開途上にある株式とは、金融商品取引所が株式の上場を承認したことを明らかにした日から上場の日の前日までのその株式及び日本証券業協会が株式を登録銘柄として登録することを明らかにした日から登録の日の前日までのその株式をいう。

 ハ 売買実例のないものでその株式の発行法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額があるもの 当該価額に比準して推定した価額

 ニ イからハまでに該当しないもの 権利行使日等又は権利行使日等に最も近い日におけるその株式の発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額

(注)この取扱いは、令第354条第2項((新株予約権の行使に関する調書))に規定する「当該新株予約権を発行又は割当てをした株式会社の株式の1株当たりの価額」について準用する。

 

所得税基本通達59-6
法第59条第1項の規定の適用に当たって、譲渡所得の基因となる資産が株式(株主又は投資主となる権利、株式の割当てを受ける権利、新株予約権(新投資口予約権を含む。以下この項において同じ。)及び新株予約権の割当てを受ける権利を含む。以下この項において同じ。)である場合の同項に規定する「その時における価額」は、23~35共-9に準じて算定した価額による。この場合、23~35共-9の(4)ニに定める「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」については、原則として、次によることを条件に、昭和39年4月25日付直資56・直審(資)17「財産評価基本通達」(法令解釈通達)の178から189-7まで((取引相場のない株式の評価))の例により算定した価額とする。 (平12課資3-8、課所4-29追加、平14課資3-11、平16課資3-3、平18課資3-12、課個2-20、課審6-12、平21課資3-5、課個2-14、課審6-12、平26課資3-8、課個2-15、課審7-15、令2課資4-2、課審7-13改正)

(1) 財産評価基本通達178、188、188-6、189-2、189-3及び189-4中「取得した株式」とあるのは「譲渡又は贈与した株式」と、同通達185、189-2、189-3及び189-4中「株式の取得者」とあるのは「株式を譲渡又は贈与した個人」と、同通達188中「株式取得後」とあるのは「株式の譲渡又は贈与直前」とそれぞれ読み替えるほか、読み替えた後の同通達185ただし書、189-2、189-3又は189-4において株式を譲渡又は贈与した個人とその同族関係者の有する議決権の合計数が評価する会社の議決権総数の50%以下である場合に該当するかどうか及び読み替えた後の同通達188の(1)から(4)までに定める株式に該当するかどうかは、株式の譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること。

(2) 当該株式の価額につき財産評価基本通達 179の例により算定する場合(同通達189-3の(1)において同通達179に準じて算定する場合を含む。)において、当該株式を譲渡又は贈与した個人が当該譲渡又は贈与直前に当該株式の発行会社にとって同通達188の(2)に定める「中心的な同族株主」に該当するときは、当該発行会社は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によること。

(3) 当該株式の発行会社が土地(土地の上に存する権利を含む。)又は金融商品取引所に上場されている有価証券を有しているときは、財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、これらの資産については、当該譲渡又は贈与の時における価額によること。

(4) 財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、同通達186-2により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額は控除しないこと。

所得税基本通達59-3(同族会社等に対する低額譲渡)
山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産を法人に対し時価の2分の1以上の対価で譲渡した場合には、法第59条第1項第2号の規定の適用はないが、時価の2分の1以上の対価による法人に対する譲渡であっても、その譲渡が法第157条《同族会社等の行為又は計算の否認》の規定に該当する場合には、同条の規定により、税務署長の認めるところによって、当該資産の時価に相当する金額により山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額を計算することができる。(昭50直資3-11、直所3-19追加)

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