事業承継税制⑩-納税猶予適用後に株式交換を行った場合に、増加した資本準備金をその他資本剰余金へ振り替えると取消し事由となる点を見逃していないか?

Q 自社株の納税猶予制度適用後に、適用会社が株式交換を行った場合で、猶予を継続するために特に気をつける点を教えてくれますか?

A 株式交換完全親会社で増加した資本金又は資本準備金を、その他資本剰余金に振り替えることができません。

解説
株式交換の実施により、株式交換完全親法人が株式交換完全子法人株式を取得しますが、原則として(※)、資本金又は資本準備金が大幅に増加します(会社法計算規則第39条第2項)。住民税均等割の課税標準が、会計上の資本金と資本準備金の合算額となるケースでは、株式交換実施年度の決算日までに増加した資本金又は資本準備金をその他資本剰余金に振り替えることで、住民税均等割の上昇を抑制することができます。しかし、自社株の納税猶予制度の適用を継続する場合には、資本準備金の減少が納税猶予の取消し事由となるため、行うことができません(租税特別措置法第70条の7第3項第11号、第5項第1号)。 

(※)新株予約権付社債を発行している完全子会社においては、当該社債権者を対象とした債権者保護手続きが必要になります(法789条第1項第3号)ので、株式交換による純資産の増加を、その他資本剰余金の増加とすることも可能です。

 

租税特別措置法第70条の7第3項第11号(非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除)

十一 当該対象受贈非上場株式等に係る認定贈与承継会社が、会社法第四百四十七条第一項若しくは第六百二十六条第一項の規定により資本金の額の減少をした場合又は同法第四百四十八条第一項の規定により準備金の額の減少をした場合(同法第三百九条第二項第九号イ及びロに該当する場合その他これに類する場合として財務省令で定める場合を除く。) 当該資本金の額の減少又は当該準備金の額の減少がその効力を生じた日

 

租税特別措置法第70条の7第5項第1号(非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除)
 
5 経営贈与承継期間の末日の翌日から猶予中贈与税額に相当する贈与税の全部につき第一項、この項、第十一項、第十二項又は第十四項の規定による納税の猶予に係る期限が確定する日までの間において、第一項の規定の適用を受ける経営承継受贈者又は同項の対象受贈非上場株式等に係る認定贈与承継会社について次の表の各号の上欄に掲げる場合に該当することとなつた場合には、当該各号の中欄に掲げる金額に相当する贈与税については、同項の規定にかかわらず、当該各号の下欄に掲げる日から二月を経過する日(当該各号の下欄に掲げる日から当該二月を経過する日までの間に当該経営承継受贈者が死亡した場合には、当該経営承継受贈者の相続人が当該経営承継受贈者の死亡による相続の開始があつたことを知つた日の翌日から六月を経過する日)をもつて同項の規定による納税の猶予に係る期限とする。
一 第三項第六号又は第八号から第十二号までに掲げる場合
猶予中贈与税額
同項第六号又は第八号から第十二号までに定める日

 

租税特別措置法施行規則第23条の9第19項(非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除)

19 法第七十条の七第三項第十一号に規定する財務省令で定める場合は、認定贈与承継会社が減少をする資本金の額の全部を準備金とする場合又は減少をする準備金の額の全部を資本金とする場合若しくは会社法第四百四十九条第一項ただし書に該当する場合とする。

 

会社法第789条第1項第3号(債権者の異議)
次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める債権者は、消滅株式会社等に対し、吸収合併等について異議を述べることができる。
一 吸収合併をする場合 吸収合併消滅株式会社の債権者
二 吸収分割をする場合 吸収分割後吸収分割株式会社に対して債務の履行(当該債務の保証人として吸収分割承継会社と連帯して負担する保証債務の履行を含む。)を請求することができない吸収分割株式会社の債権者(第七百五十八条第八号又は第七百六十条第七号に掲げる事項についての定めがある場合にあっては、吸収分割株式会社の債権者)
三 株式交換契約新株予約権が新株予約権付社債に付された新株予約権である場合 当該新株予約権付社債についての社債権者

 

会社法計算規則第39条(第三款 株式交換)
吸収型再編対価の全部又は一部が株式交換完全親会社の株式又は持分である場合には、株式交換完全親会社において変動する株主資本等の総額(以下この条において「株主資本等変動額」という。)は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める方法に従い定まる額とする。
一 当該株式交換が支配取得に該当する場合(株式交換完全子会社による支配取得に該当する場合を除く。) 吸収型再編対価時価又は株式交換完全子会社の株式の時価を基礎として算定する方法
二 株式交換完全親会社と株式交換完全子会社が共通支配下関係にある場合 株式交換完全子会社の財産の株式交換の直前の帳簿価額を基礎として算定する方法(前号に定める方法によるべき部分にあっては、当該方法)
三 前二号に掲げる場合以外の場合 前号に定める方法
2 前項の場合には、株式交換完全親会社の資本金及び資本剰余金の増加額は、株主資本等変動額の範囲内で、株式交換完全親会社が株式交換契約の定めに従い定めた額とし、利益剰余金の額は変動しないものとする。ただし、法第七百九十九条(法第八百二条第二項において読み替えて準用する場合を含む。)の規定による手続をとっている場合以外の場合にあっては、株式交換完全親会社の資本金及び資本準備金の増加額は、株主資本等変動額に対価自己株式の帳簿価額を加えて得た額に株式発行割合(当該株式交換に際して発行する株式の数を当該株式の数及び対価自己株式の数の合計数で除して得た割合をいう。)を乗じて得た額から株主資本等変動額まで(株主資本等変動額に対価自己株式の帳簿価額を加えて得た額に株式発行割合を乗じて得た額が株主資本等変動額を上回る場合にあっては、株主資本等変動額)の範囲内で、株式交換完全親会社が株式交換契約の定めに従いそれぞれ定めた額(株式交換完全親会社が持分会社である場合にあっては、株主資本等変動額)とし、当該額の合計額を株主資本等変動額から減じて得た額をその他資本剰余金の変動額とする。
3 前項の規定にかかわらず、株主資本等変動額が零未満の場合には、当該株主資本等変動額のうち、対価自己株式の処分により生ずる差損の額をその他資本剰余金(当該株式交換完全親会社が持分会社の場合にあっては、資本剰余金)の減少額とし、その余の額をその他利益剰余金(当該株式交換完全親会社が持分会社の場合にあっては、利益剰余金)の減少額とし、資本金、資本準備金及び利益準備金の額は変動しないものとする。

 

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