非上場株式の評価㉚-同族関係者に該当する法人株主(議決権保有割合20%)から、発行法人が自己株式取得する場合に、中心的な同族株主に該当しないとして、取得価額を相続税法上の時価に設定していないか?

Q評価対象会社は類似業種比準方式(大会社)の適用会社です。株式集約のために法人株主(議決権割合20%)から自己株式取得を行います。当該法人株主は、評価対象会社の同族株主の判定において、同族関係者に該当する法人です。相続税法上の時価(原則評価額)で自己株式を取得する場合に、留意することはありますか?

A「相続税法上の時価<法人税法上の時価」となる場合には、その差額について法人株主で譲渡益が認定され法人税等の課税が生じるとともに、評価対象会社の個人株主に贈与税課税が行われる可能性があります。

解説
中心的な同族株主とは、その株主を中心に一定範囲の親族等の議決権を合計し、議決権割合が25%以上となる同族株主です(財産評価基本通達188(2))。本件では、法人株主を中心とした場合に同通達に基づいて、25%以上の議決権を保有するかどうかを判定することになります。法人株主の場合、個人株主のように血縁関係が生じていないため、一定範囲の親族等の議決権を合計するという同通達文言をどのように考えるべきかの検討が必要です。評価対象会社の他の同族株主との関係性、議決権保有状況により異なりますが、本件では、法人株主が評価対象会社の同族関係者(法人税法施行令第4条)に該当します。したがって、法人単独の議決権割合が25%未満であったとしても、他の同族関係者と合計して25%以上となるため、法人税法上の時価は「小会社」として評価することになると考えます(法人税基本通達9-1-14(1))。

国税庁資産課税課が所得税法基本通達59−6の改正にあたり以下を公表しています。
「『所得税基本通達の制定について』の一部改正について(法令解釈通達)」の 趣旨説明(情報)

https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/joto-sanrin/200930/200930.pdf

上記資料P4において、中心的な同族株主が小会社方式となることの趣旨を公表しており、当該趣旨から考えても、法人株主が保有する評価対象会社株式においては、当該法人株主が他の同族株主とどのような関係があるかを考慮する必要があると考えます。

 

財産評価基本通達188(同族株主以外の株主等が取得した株式)

178≪取引相場のない株式の評価上の区分≫の「同族株主以外の株主等が取得した株式」は、次のいずれかに該当する株式をいい、その株式の価額は、次項の定めによる。(昭47直資3-16・昭53直評5外・昭58直評5外・平15課評2-15外・平18課評2-27外改正)

(1) 同族株主のいる会社の株式のうち、同族株主以外の株主の取得した株式
 この場合における「同族株主」とは、課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者(法人税法施行令第4条((同族関係者の範囲))に規定する特殊の関係のある個人又は法人をいう。以下同じ。)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30%以上(その評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の50%超である会社にあっては、50%超)である場合におけるその株主及びその同族関係者をいう。

(2) 中心的な同族株主のいる会社の株主のうち、中心的な同族株主以外の同族株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの(課税時期において評価会社の役員(社長、理事長並びに法人税法施行令第71条第1項第1号、第2号及び第4号に掲げる者をいう。以下この項において同じ。)である者及び課税時期の翌日から法定申告期限までの間に役員となる者を除く。)の取得した株式
 この場合における「中心的な同族株主」とは、課税時期において同族株主の1人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族(これらの者の同族関係者である会社のうち、これらの者が有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である会社を含む。)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である場合におけるその株主をいう。

(3) 同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の15%未満である場合におけるその株主の取得した株式

(4) 中心的な株主がおり、かつ、同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の15%以上である場合におけるその株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの((2)の役員である者及び役員となる者を除く。)の取得した株式
 この場合における「中心的な株主」とは、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の15%以上である株主グループのうち、いずれかのグループに単独でその会社の議決権総数の10%以上の議決権を有している株主がいる場合におけるその株主をいう。

 

法人税基本通達9-1-14(市場有価証券等以外の株式の価額の特例)
法人が、市場有価証券等以外の株式(9-1-13の(1)及び(2)に該当するものを除く。)について法第33条第2項《資産の評価損の損金不算入等》の規定を適用する場合において、事業年度終了の時における当該株式の価額につき昭和39年4月25日付直資56・直審(資)17「財産評価基本通達」(以下9-1-14において「財産評価基本通達」という。)の178から189-7まで《取引相場のない株式の評価》の例によって算定した価額によっているときは、課税上弊害がない限り、次によることを条件としてこれを認める。(昭55年直法2-8「三十一」により追加、昭58年直法2-11「七」、平2年直法2-6「三」、平3年課法2-4「八」、平12年課法2-7「十六」、平12年課法2-19「十三」、平17年課法2-14「九」、平19年課法2-17「十九」、令2年課法2-17「六」により改正)

(1) 当該株式の価額につき財産評価基本通達179の例により算定する場合 (同通達189-3の(1)において同通達179に準じて算定する場合を含む。)において、当該法人が当該株式の発行会社にとって同通達188の(2)に定める「中心的な同族株主」に該当するときは、当該発行会社は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によること。

(2) 当該株式の発行会社が土地(土地の上に存する権利を含む。)又は金融商品取引所に上場されている有価証券を有しているときは、財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、これらの資産については当該事業年度終了の時における価額によること。

(3) 財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、同通達186-2により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額は控除しないこと。

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