株主への利益移転①-相続税法第7条と第9条を区別せずに実務を行っていないか?
Q 株式を時価よりも低額で譲渡した場合や、時価よりも低額で増資をして株式を引き受けた場合に、贈与税が課税されると聞きましたが、根拠となる税法を教えてくれますか?
A 相続税法第7条と第9条が根拠となります。
解説
著しく低い価額で行われた譲渡取引や、対価を支払わないで利益を受けた取引が行われた場合に、相続税法では、「利益を受けた者が、利益相当額を贈与により取得したもの」とみなして、贈与税を課税します(みなし贈与)。みなし贈与のうち、相続税法第7条は、著しく低い価額で行われた譲渡における「取引当事者間の利益の移転」について、相続税法第9条は、「当事者間で直接行った取引ではないが、その取引の結果として生じた、一方の者から別の者への利益の移転」について規定しています。以下に具体例を示します。
相続税法第7条の具体例
父が保有する株式(時価1億円)を、子が1,000万円で買い受けた場合には、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合に該当し、父から子が贈与を受けたものとして、時価と売買価額との差額に贈与税が課税されます。
相続税法第9条の具体例
父が100%出資する株式会社(時価純資産1億円)に、子が1,000万円で金銭出資をして全株を引き受けた場合には、子が著しく低い価額の対価で利益を受けた場合に該当し、父から子が贈与を受けたものとして、引き受けた株式の時価と出資額との差額に贈与税が課税されます。
相続税法第7条(贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合)
第七条 著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、当該財産の譲渡があつた時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があつた時における当該財産の時価(当該財産の評価について第三章に特別の定めがある場合には、その規定により評価した価額)との差額に相当する金額を当該財産を譲渡した者から贈与(当該財産の譲渡が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。ただし、当該財産の譲渡が、その譲渡を受ける者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合において、その者の扶養義務者から当該債務の弁済に充てるためになされたものであるときは、その贈与又は遺贈により取得したものとみなされた金額のうちその債務を弁済することが困難である部分の金額については、この限りでない。
相続税法第9条(贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合)
第九条 第五条から前条まで及び次節に規定する場合を除くほか、対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額(対価の支払があつた場合には、その価額を控除した金額)を当該利益を受けさせた者から贈与(当該行為が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。ただし、当該行為が、当該利益を受ける者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合において、その者の扶養義務者から当該債務の弁済に充てるためになされたものであるときは、その贈与又は遺贈により取得したものとみなされた金額のうちその債務を弁済することが困難である部分の金額については、この限りでない。