株主への利益移転②-相続税法基本通達9−2と9−4を区別せずに実務を行っていないか?

Q 同族会社に対して、財産を無償又は時価よりも著しく低額で譲渡した場合には、会社株式を保有する株式価額の増加により、同族会社の株主に贈与税が課税されると聞きましたが、同族株主のみが対象となると考えればよいでしょうか?

A 同族株主以外も対象となります。

解説
相続税法基本通達9−2では、同族会社に対する財産の無償提供等の取引により、同族会社に利益が移転することで、当該利益を間接的に享受することになる株主を受贈者として、贈与税を課税することを規定しています(同族会社に対する法人税等の課税は法人税法の規定に従います)。同族会社に対する規定となっていますが、利益の移転先の受贈者となる株主について、同族株主に限定していません。
他方で、相続税法基本通達9−4では、同族会社が新株を発行する場合に、これを引き受ける権利を親族が取得した場合に、贈与税を課税することを規定しています。同族会社に対して、財産の提供等による利益移転が起こるわけではない点、利益の移転先の受贈者について、親族等に限定している点が、相続税法基本通達9−2とは異なります。

 

相続税法基本通達9-2(株式又は出資の価額が増加した場合)

同族会社(法人税法(昭和40年法律第34号)第2条第10号に規定する同族会社をいう。以下同じ。)の株式又は出資の価額が、例えば、次に掲げる場合に該当して増加したときにおいては、その株主又は社員が当該株式又は出資の価額のうち増加した部分に相当する金額を、それぞれ次に掲げる者から贈与によって取得したものとして取り扱うものとする。この場合における贈与による財産の取得の時期は、財産の提供があった時、債務の免除があった時又は財産の譲渡があった時によるものとする。(昭57直資7-177改正、平15課資2-1改正)

(1) 会社に対し無償で財産の提供があった場合 当該財産を提供した者
(2) 時価より著しく低い価額で現物出資があった場合 当該現物出資をした者
(3) 対価を受けないで会社の債務の免除、引受け又は弁済があった場合 当該債務の免除、引受け又は弁済をした者
(4) 会社に対し時価より著しく低い価額の対価で財産の譲渡をした場合 当該財産の譲渡をした者

 

相続税法基本通達9-4(同族会社の募集株式引受権)

同族会社が新株の発行(当該同族会社の有する自己株式の処分を含む。以下9-7までにおいて同じ。)をする場合において、当該新株に係る引受権(以下9-5までにおいて「募集株式引受権」という。)の全部又は一部が会社法(平成17年法律第86号)第206条各号((募集株式の引受け))に掲げる者(当該同族会社の株主の親族等(親族その他法施行令第31条に定める特別の関係がある者をいう。以下同じ。)に限る。)に与えられ、当該募集株式引受権に基づき新株を取得したときは、原則として、当該株主の親族等が、当該募集株式引受権を当該株主から贈与によって取得したものとして取り扱うものとする。ただし、当該募集株式引受権が給与所得又は退職所得として所得税の課税対象となる場合を除くものとする。(昭57直資2-177、平18課資2-2改正)