株主への利益移転⑦-債務超過会社における株主への利益移転に関する留意点を見逃していないか?
Q 同族会社に対して、財産を無償又は時価よりも著しく低額で譲渡した場合には、会社株式を保有する株式価額の増加により、同族会社の株主に贈与税が課税されると聞きましたが、債務超過の同族会社に対する譲渡であれば、株主に贈与税が課税されないと考えてよいでしょうか?
A 株式価額の増加後も債務超過であれば、株主に贈与税は課税されないと考えます。
解説
同族会社に対する財産の無償提供等の取引により、同族会社に利益が移転することで、当該利益を間接的に享受することになる株主を受贈者として、贈与税を課税することを規定しています(相続税法基本通達9−2)。この点、同族会社が「資力を喪失している場合」においては、債務超過額に相当する部分については、みなし贈与の対象から除かれています(相続税法基本通達9−3)。
相続税法基本通達9−3では、「会社が資力を喪失している場合」とは、「法令に基づく会社更生、再生計画認可の決定、会社の整理等の法定手続による整理のほか、株主総会の決議、債権者集会の協議等により再建整備のために負債整理に入ったような場合」とされているため、単に一時的に債務超過となっている場合は該当しないと規定されています。しかし、一時的に債務超過の場合でみなし贈与の対象となるとしても、財産の無償提供前後で債務超過である場合においては、株価が0円であることに変わりはないため、みなし贈与課税は生じないと考えられます。
同族会社(法人税法(昭和40年法律第34号)第2条第10号に規定する同族会社をいう。以下同じ。)の株式又は出資の価額が、例えば、次に掲げる場合に該当して増加したときにおいては、その株主又は社員が当該株式又は出資の価額のうち増加した部分に相当する金額を、それぞれ次に掲げる者から贈与によって取得したものとして取り扱うものとする。この場合における贈与による財産の取得の時期は、財産の提供があった時、債務の免除があった時又は財産の譲渡があった時によるものとする。(昭57直資7-177改正、平15課資2-1改正)
(1) 会社に対し無償で財産の提供があった場合 当該財産を提供した者
(2) 時価より著しく低い価額で現物出資があった場合 当該現物出資をした者
(3) 対価を受けないで会社の債務の免除、引受け又は弁済があった場合 当該債務の免除、引受け又は弁済をした者
(4) 会社に対し時価より著しく低い価額の対価で財産の譲渡をした場合 当該財産の譲渡をした者
相続税法基本通達9-3(会社が資料を喪失した場合における私財提供等)
同族会社の取締役、業務を執行する社員その他の者が、その会社が資力を喪失した場合において9-2の(1)から(4)までに掲げる行為をしたときは、それらの行為によりその会社が受けた利益に相当する金額のうち、その会社の債務超過額に相当する部分の金額については、9-2にかかわらず、贈与によって取得したものとして取り扱わないものとする。 なお、会社が資力を喪失した場合とは、法令に基づく会社更生、再生計画認可の決定、会社の整理等の法定手続による整理のほか、株主総会の決議、債権者集会の協議等により再建整備のために負債整理に入ったような場合をいうのであって、単に一時的に債務超過となっている場合は、これに該当しないのであるから留意する。(昭57直資2-177改正)