株主への利益移転⑤-株主への利益移転によるみなし贈与課税は、第三者間では起こらないと考えていないか?

Q 同族会社に対して、財産を無償又は時価よりも著しく低額で譲渡した場合には、会社株式を保有する株式価額の増加により、同族会社の株主に贈与税が課税されると聞きましたが、同族関係者間ではなく、第三者間のみなし贈与も対象となりますか?

A 対象となります。

解説
相続税法第7条、第9条、相続税法基本通達9−2には、みなし贈与を親族間に限定する文言は入っていません。また、平成21年8月作成の「資産税審理研修資料」のまとめには、以下のように記載されており、第三者間でもみなし贈与課税は生じると考えます。

資料引用
質疑応答事例7251  Ⅳ 第三者間贈与とみなし贈与課税
東京国関局課税第一部 資産課税課 資産評価官(平成21年8月作成)
「資産税審理研修資料」 [情報公開法第9条第1項による開示情報]

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 8 まとめ
 贈与税は、相続税の補完税であることから、贈与税が課税される行為については、将来に相続が生じるような特殊関係者での行為に限定されるべきであるとの主張が起こりうる。
 このことについて、仙台地裁平成3年11月12日判決では、「贈与税の納税義務者を相続税の納税義務者とは別個に定めており、沿革的には贈与税が相続税の補完税としての性格を有しているとしても、理論的には、贈与による財産の取得が取得者の担税力を増加させるため、それ自体として課税の対象になるというべき」と判示して、相続を生じる特殊関係のある者相互間での贈与だけではなく、いわゆる第三者間の贈与について、贈与税を課税することを相当としている。
 そして、第三者間において利益の授受があった場合のみなし贈与課税についても、東京地裁平成19年1月31日判決では、「租税回避の問題が生じるような特殊な関係にあるか否かといった取引当事者間の関係および主観面を問わない」と判示して、相続を生じる特殊関係のある者相互間での贈与だけではなく、いわゆる第三者間の取引における、利益の授受について、みなし贈与課税することを相当としている。
 したがって、贈与税は、沿革的には相続税の補完税の性格を有しているとしても、贈与による財産の取得が取得者の担税力を増加させること自体が課税の対象になるのであり、将来に相続が生じるような特殊関係者に限定されることなく、第三者間での贈与についても贈与税の課税がされることとなる。そしてそのことは、本来の贈与により取得した財産への課税であっても、みなし贈与課税であっても同様である。

 

相続税法第7条(贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合)
 
第七条 著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、当該財産の譲渡があつた時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があつた時における当該財産の時価(当該財産の評価について第三章に特別の定めがある場合には、その規定により評価した価額)との差額に相当する金額を当該財産を譲渡した者から贈与(当該財産の譲渡が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。ただし、当該財産の譲渡が、その譲渡を受ける者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合において、その者の扶養義務者から当該債務の弁済に充てるためになされたものであるときは、その贈与又は遺贈により取得したものとみなされた金額のうちその債務を弁済することが困難である部分の金額については、この限りでない。

 

相続税法第9条(贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合)

第九条 第五条から前条まで及び次節に規定する場合を除くほか、対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額(対価の支払があつた場合には、その価額を控除した金額)を当該利益を受けさせた者から贈与(当該行為が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。ただし、当該行為が、当該利益を受ける者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合において、その者の扶養義務者から当該債務の弁済に充てるためになされたものであるときは、その贈与又は遺贈により取得したものとみなされた金額のうちその債務を弁済することが困難である部分の金額については、この限りでない。

 

相続税法基本通達9-2(株式又は出資の価額が増加した場合)

同族会社(法人税法(昭和40年法律第34号)第2条第10号に規定する同族会社をいう。以下同じ。)の株式又は出資の価額が、例えば、次に掲げる場合に該当して増加したときにおいては、その株主又は社員が当該株式又は出資の価額のうち増加した部分に相当する金額を、それぞれ次に掲げる者から贈与によって取得したものとして取り扱うものとする。この場合における贈与による財産の取得の時期は、財産の提供があった時、債務の免除があった時又は財産の譲渡があった時によるものとする。(昭57直資7-177改正、平15課資2-1改正)

(1) 会社に対し無償で財産の提供があった場合 当該財産を提供した者
(2) 時価より著しく低い価額で現物出資があった場合 当該現物出資をした者
(3) 対価を受けないで会社の債務の免除、引受け又は弁済があった場合 当該債務の免除、引受け又は弁済をした者
(4) 会社に対し時価より著しく低い価額の対価で財産の譲渡をした場合 当該財産の譲渡をした者