株主への利益移転⑪-合併を適正な合併比率で行わない場合のみなし贈与規定を整理せずに実務を行っていないか?

Q 兄と弟がそれぞれ経営するA社とB社があり、A社の株式は兄が100%、B社の株式は弟が100%保有しています。A社を合併法人、B社を被合併法人とする合併(適格合併)を行いますが、合併比率が間違っていると、税務上何が問題になりますか?
A社とB社の発行済株式総数は100株、会社価値はA社100、B社50です。
適正な合併比率は「1:0.5」のため、合併後に弟には50株のA社株式が交付されます。

A 株主にみなし贈与課税が生じる可能性があります。

解説
合併にあたっては、合併比率を算定します。合併法人(A社)の株主である兄に有利な合併比率とした場合には、被合併法人(B社)の株主である弟へ交付するA社株式数が少なくなります。例えば本件の合併を「1:0.1」の合併比率で行えば、弟には10株のA社株式が交付されることになり、適正な交付株式数である50株よりも40株少なくなります。弟がB社株式100株を、A社株式10株という著しく低い価額の対価でA社に譲渡する行為は、弟から兄へのみなし贈与に該当します(相続税法基本通達9−2(4))。弟に交付されなかった株式40株分の価値は、兄の保有する株式価値に移転しています。

一方で、本件の合併を「1:0.9」の合併比率で行えば、弟には90株のA社株式が交付されることになり、適正な交付株式数である50株よりも40株多くなります。この40株分については、A社株式引受権を兄から弟に贈与したものと取り扱うことで、みなし贈与に該当します(相続税法基本通達9−4)。

 

相続税法基本通達9-2(株式又は出資の価額が増加した場合)

同族会社(法人税法(昭和40年法律第34号)第2条第10号に規定する同族会社をいう。以下同じ。)の株式又は出資の価額が、例えば、次に掲げる場合に該当して増加したときにおいては、その株主又は社員が当該株式又は出資の価額のうち増加した部分に相当する金額を、それぞれ次に掲げる者から贈与によって取得したものとして取り扱うものとする。この場合における贈与による財産の取得の時期は、財産の提供があった時、債務の免除があった時又は財産の譲渡があった時によるものとする。(昭57直資7-177改正、平15課資2-1改正)

(1) 会社に対し無償で財産の提供があった場合 当該財産を提供した者
(2) 時価より著しく低い価額で現物出資があった場合 当該現物出資をした者
(3) 対価を受けないで会社の債務の免除、引受け又は弁済があった場合 当該債務の免除、引受け又は弁済をした者
(4) 会社に対し時価より著しく低い価額の対価で財産の譲渡をした場合 当該財産の譲渡をした者

 

相続税法基本通達9-4(同族会社の募集株式引受権)

同族会社が新株の発行(当該同族会社の有する自己株式の処分を含む。以下9-7までにおいて同じ。)をする場合において、当該新株に係る引受権(以下9-5までにおいて「募集株式引受権」という。)の全部又は一部が会社法(平成17年法律第86号)第206条各号((募集株式の引受け))に掲げる者(当該同族会社の株主の親族等(親族その他法施行令第31条に定める特別の関係がある者をいう。以下同じ。)に限る。)に与えられ、当該募集株式引受権に基づき新株を取得したときは、原則として、当該株主の親族等が、当該募集株式引受権を当該株主から贈与によって取得したものとして取り扱うものとする。ただし、当該募集株式引受権が給与所得又は退職所得として所得税の課税対象となる場合を除くものとする。(昭57直資2-177、平18課資2-2改正)