株主への利益移転⑥-株主への利益移転によるみなし贈与課税は、同族会社以外では起こらないと考えていないか?

Q 同族会社に対して、財産を無償又は時価よりも著しく低額で譲渡した場合には、会社株式を保有する株式価額の増加により、同族会社の株主に贈与税が課税されると聞きましたが、みなし贈与課税は、同族会社に限定して起こると考えてよいですか?

A 限定していません。

解説
相続税法第9条には、みなし贈与を同族会社に限定した文言はありません。ただし、相続税法基本通達9−2、9−4は、同族会社に限定した規定となっています。この点、過去の裁決事例において、相続税法基本通達は、相続税法第9条の比較的典型的な事例として同族会社の例を挙げているにすぎず、相続税法第9条の適用を同族会社に限定していないと判示されています(平成15年3月25日、平成29年12月1日)。

 

裁決事例(平成15年3月25日)

株式会社ではない医療法人にみなし贈与の適用があるかについて、審判所は以下のように判示しています。

「・・・基本通達の定めは、主として、相続税法第9条についての比較的典型的な事例についてその取扱いを示しているのであって、相続税法第9条が適用される場合を限定的に列挙しているものではない。」

 

裁決事例(平成29年12月1日)

請求人が、本件通達は、同族会社と非同族会社とでその取扱いを異にするものであり、本件通達により、本件増加益を課税財産とすることは許されないと主張したのに対して、審判所は以下のように判示しています。

「・・・本件通達は、相続税法第9条が適用される場合の比較的典型的な事例として同族会社の例を挙げているものにすぎず、同条が適用される場合を同族会社に限定しているものではないし、また、本件通達をもって本件増加益を贈与税の課税財産とするものでもない。」

 

相続税法第9条(贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合)

第九条 第五条から前条まで及び次節に規定する場合を除くほか、対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額(対価の支払があつた場合には、その価額を控除した金額)を当該利益を受けさせた者から贈与(当該行為が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。ただし、当該行為が、当該利益を受ける者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合において、その者の扶養義務者から当該債務の弁済に充てるためになされたものであるときは、その贈与又は遺贈により取得したものとみなされた金額のうちその債務を弁済することが困難である部分の金額については、この限りでない。

 

相続税法基本通達9-2(株式又は出資の価額が増加した場合)

同族会社(法人税法(昭和40年法律第34号)第2条第10号に規定する同族会社をいう。以下同じ。)の株式又は出資の価額が、例えば、次に掲げる場合に該当して増加したときにおいては、その株主又は社員が当該株式又は出資の価額のうち増加した部分に相当する金額を、それぞれ次に掲げる者から贈与によって取得したものとして取り扱うものとする。この場合における贈与による財産の取得の時期は、財産の提供があった時、債務の免除があった時又は財産の譲渡があった時によるものとする。(昭57直資7-177改正、平15課資2-1改正)

(1) 会社に対し無償で財産の提供があった場合 当該財産を提供した者
(2) 時価より著しく低い価額で現物出資があった場合 当該現物出資をした者
(3) 対価を受けないで会社の債務の免除、引受け又は弁済があった場合 当該債務の免除、引受け又は弁済をした者
(4) 会社に対し時価より著しく低い価額の対価で財産の譲渡をした場合 当該財産の譲渡をした者

 

相続税法基本通達9-4(同族会社の募集株式引受権)

同族会社が新株の発行(当該同族会社の有する自己株式の処分を含む。以下9-7までにおいて同じ。)をする場合において、当該新株に係る引受権(以下9-5までにおいて「募集株式引受権」という。)の全部又は一部が会社法(平成17年法律第86号)第206条各号((募集株式の引受け))に掲げる者(当該同族会社の株主の親族等(親族その他法施行令第31条に定める特別の関係がある者をいう。以下同じ。)に限る。)に与えられ、当該募集株式引受権に基づき新株を取得したときは、原則として、当該株主の親族等が、当該募集株式引受権を当該株主から贈与によって取得したものとして取り扱うものとする。ただし、当該募集株式引受権が給与所得又は退職所得として所得税の課税対象となる場合を除くものとする。(昭57直資2-177、平18課資2-2改正)