株主への利益移転⑩-少数株主からの自己株式取得時に、株主にみなし贈与課税が生じることを伝えずに実務を行っていないか?
Q 会社の株式保有割合は、オーナーが80%、役員と従業員が20%です。役員・従業員と交渉し、配当還元価額で会社が全株取得することになりました。自己株式取得により、オーナーに贈与税が課税されると聞きましたが本当でしょうか? 株式評価額は、相続税原則評価額は1株10,000円、配当還元価額は1株500円です。
A オーナーは贈与税の課税対象です。
解説
同族会社に対する財産の低額譲渡により、同族会社に利益が移転することで、当該利益を間接的に享受する株主に贈与税が課税されます(相続税法第9条、相続税法基本通達9-2(4))。本件では、役員と従業員から全株式を取得した会社に価値が移転しており、オーナーが保有する株式の価値は上昇していますので、この価値の上昇分に対して贈与税が課税されます。
仮に本件の株式保有状況で、オーナーが役員・従業員と、個人間で直接売買を行い、配当還元価額で株式を取得した場合には、1株10,000円の株式を1株500円で取得できることになり、著しく低い価額による財産の譲り受けに該当することは明白です。この場合、相続税評価額(原則評価)と、支払った対価(配当還元価額)との差額に贈与税が課税されるため(相続税法第7条)、専門家から贈与税の申告義務があることを伝えられ、オーナーは贈与税の申告を行い、納税するはずです。
当事者間での直接取引の場合には贈与税が課税されるけれども、会社を介した間接取引の場合には贈与税が課税されないことになれば、課税の平等性が保たれないため、相続税法第9条、相続税法基本通達9-2(4)でこれを捕捉しています。
したがって、本件においてオーナーは贈与税の課税対象であり、贈与税の申告・納税義務があります。仮に贈与税の申告をせず、当局から贈与税の申告漏れが指摘された場合には、贈与税の本税とは別に、加算税と延滞税が課税されることになりますので留意が必要です。
相続税法第9条(贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合)
第九条 第五条から前条まで及び次節に規定する場合を除くほか、対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額(対価の支払があつた場合には、その価額を控除した金額)を当該利益を受けさせた者から贈与(当該行為が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。ただし、当該行為が、当該利益を受ける者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合において、その者の扶養義務者から当該債務の弁済に充てるためになされたものであるときは、その贈与又は遺贈により取得したものとみなされた金額のうちその債務を弁済することが困難である部分の金額については、この限りでない。
同族会社(法人税法(昭和40年法律第34号)第2条第10号に規定する同族会社をいう。以下同じ。)の株式又は出資の価額が、例えば、次に掲げる場合に該当して増加したときにおいては、その株主又は社員が当該株式又は出資の価額のうち増加した部分に相当する金額を、それぞれ次に掲げる者から贈与によって取得したものとして取り扱うものとする。この場合における贈与による財産の取得の時期は、財産の提供があった時、債務の免除があった時又は財産の譲渡があった時によるものとする。(昭57直資7-177改正、平15課資2-1改正)
(1) 会社に対し無償で財産の提供があった場合 当該財産を提供した者
(2) 時価より著しく低い価額で現物出資があった場合 当該現物出資をした者
(3) 対価を受けないで会社の債務の免除、引受け又は弁済があった場合 当該債務の免除、引受け又は弁済をした者
(4) 会社に対し時価より著しく低い価額の対価で財産の譲渡をした場合 当該財産の譲渡をした者