株主への利益移転⑨-みなし贈与の「著しく低い価額の対価」とみなし譲渡の「著しく低い価額の対価」の違いを明確にした判例を見逃していないか?
Q 個人が法人に対して、時価よりも著しく低い価額で資産を譲渡したかどうかの基準は、譲渡時の時価の2分の1未満であるかどうかであると聞きました。みなし贈与の基準も同様に考えることはできますか?
A できません。
解説
所得税法第59条第1項第2号、所得税法施行令第169条で定めるみなし譲渡の規定では、譲渡対価の額が、資産の譲渡の時における価額の2分の1未満である場合を「著しく低い価額の対価」であると規定しています。昭和34年度の相続税法基本通達改正前は、みなし贈与についてもみなし譲渡と同様の規定がありましたが、時価の2分の1以上であればみなし贈与とならず、贈与税が課税できないこととなるため、課税上の弊害が生じることから、規定の撤廃につながっています。
法令上は「著しく低い価額の対価」という同一文言により規定されていますが、所得税法におけるみなし譲渡判定時の「著しく低い価額の対価」の基準を、相続税法におけるみなし贈与判定時に流用することはできません。相続税法第7条の「著しく低い価額の対価」と所得税法第59条第1項第2号の「著しく低い価額の対価」は、課税の理論的根拠が異なることを判示した横浜地裁判決(昭和57年7月28日)を紹介しておきます。
参照判例 横浜地裁判決(昭和57年7月28日)
相続税法第7条の「著しく低い価額の対価」と所得税法第59条第1項第2号の「著しく低い価額の対価」の違いとは?
「所得税法59条1項2号は「著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡」と規定し、同法施行令169条はこれを受けて右の政令で定める額とは「資産の譲渡の時における価額の2分の1に満たない金額」と規定している。しかしながら、右所得税法の規定は譲渡所得に関する規定であるところ、譲渡所得に対する課税は、資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者から他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものである。そして、所得税法は、資産の譲渡により収入として実現した増加益にのみ課税するのを原則とするが、例外的に、増加益に対する課税が繰り延べされることを防止するために、未実現の増加益に対して課税することのできる場合を同法59条に定めている。すなわち、一定の無償譲渡(同条1項1号)又は著しく低い価額の対価による譲渡(同項2号)があった場合には、時価による譲渡があったものとみなし、増加益の全額を課税の対象としているのである。そして、所得税法施行令169条は、前記のとおり、右の所得税法59条1項2号の規定を受けて、著しく低い価額の対価として政令で定める額を資産の譲渡の時における価額の2分の1に満たない金額と規定しているが、これらの規定はどのような場合に未実現の増加益を譲渡所得としてとらえ、これに対して課税するのを適当とするかという見地から定められたものであって、どのような場合に低額譲受を実質的に贈与とみなして贈与税を課するのが適当かという考慮とは全く課税の理論的根拠を異にするといわなければならない。
したがって、前記所得税法の規定の文言と相続税法7条の低額譲受の規定の文言が同一であることや前記所得税法施行令の規定を、原告の前記主張の根拠とすることはできないといわざるをえない。なお、右の所得税法施行令の規定にいう資産の譲渡の時における価額が、時価すなわち客観的な取引価格を意味し、相続税評価額を意味するものでないことは、前記のとおり譲渡所得に対する課税が値上りによる客観的な増加益に対する課税であることにかんがみればいうまでもないところである。 」