非上場株式の総則6項による否認⑩-租税回避目的がないにも関わらず否認された事案を見逃していないか?

Q 総則6項による否認事案を教えていただけますか?

A 租税回避目的がないにも関わらず、相続税申告時の評価額が、相続後に行われたM&Aによる売却価額と著しく乖離していることから、総則6項により否認された事案があります。

解説
被相続人から相続により取得した非上場株式を、財産評価基本通達に則って、類似業種比準方式により評価して相続税の申告をしたところ、相続後に行われたM&Aによる株式売却価額と10倍を超える価額の乖離があったことから、当局が民間の評価機関に鑑定評価を依頼し、株式価値算定報告書(DCF法による株価算定)に基づいて更正処分を行った事案です。

 

相続開始前後とM&Aまでの流れ

相続発生前(亡くなる数ヶ月前〜直前)
薬局の経営等を行う会社の代表取締役であった被相続人は、亡くなる数ヶ月前からM&Aに向けて動き始め、被相続人とA銀行との間で、M&A等のアドバイスに係る契約を締結した。

亡くなる数週間前に、買い手先と自社株式の譲渡に向けて協議を行うことについての基本合意書を締結した。基本合意書では、譲渡価格は約63億円(1株105,068円)とすることとされていた。
なお、買い手との交渉を行っていたのは被相続人個人であり、会社や相続人は一切関与していなかった。

相続発生後(平成26年6月11日以後)
平成26年6月18日、被相続人の妻は、会社の監査役から代表取締役に就任した。同日、妻とA銀行との間で、M&A等のアドバイスに係る契約を締結し、買い手先との新たな株式売却交渉が始まった。

平成26年7月8日、遺産分割協議が行われ、相続人は株式を相続した。同日、妻は自社株式を全株買い取ったうえで、第三者である買い手先と株式譲渡契約を締結した。

 

株式の財産評価のポイント
相続人は同族株主であるため、財産評価基本通達による原則評価が適用され、類似業種比準方式(大会社)による評価が相続税評価額となります。

 

相続税申告(平成26年6月11日に相続発生)
父に相続が発生し、株式の評価に類似業種比準方式を適用して相続税を申告したところ、当局により否認されました。
当局は、類似業種比準方式による評価額(1株8,186円)は認められず、が民間の評価機関に鑑定評価を依頼し、「株式価値算定報告書」(1株80,373円)に基づいて更正処分を行っています。
納税者は更正処分を不服として国税不服審判所に申立てを行いましたが、棄却されました。
※現在地裁にて争われているようです。

 

否認されたポイント(審判所の判断抜粋)
本件相続株式通達評価額は、本件算定報告額並びに本件株式譲渡価格及び本件基本合意価格と著しくかい離しており、本件相続開始時における本件相続株式の客観的な交換価値を示しているものとみることはできず、本件相続開始時における本件相続株式の客観的な交換価値を算定するにつき、評価通達の定める評価方法が合理性を有するものとみることはできない。
そうすると、本件相続における本件相続株式については、評価通達の定める評価方法を形式的に全ての納税者に係る全ての財産の価額の評価において用いるという形式的な平等を貫くと、かえって租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らかというべきであり、評価通達の定める評価方法以外の評価方法によって評価すべき特別な事情がある。
そして、本件株式譲渡価格及び本件基本合意価格をもって、主観的事情を捨象した客観的な取引価格ということはできないのに対し、本件算定報告は、上記(ハ)のとおり、適正に行われたものであり合理性があることから、本件相続株式の相続税法第22条に規定する時価は、本件算定報告額であると認められる。
したがって、評価通達6の適用は適法である。

 

相続税法第22条(評価の原則)

第二十二条 この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。

 

財産評価基本通達 総則6(この通達の定めにより難い場合の評価)
この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。

 

参考
仙裁(諸)令2第4号 令和2年7月8日
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