非上場株式の譲渡時の時価⑧-特例的評価方式の通達趣旨を抑えずに実務を行っていないか?
Q 非上場株式の譲渡時の時価について、特例的評価方式(配当還元方式)により評価する趣旨を教えてくれますか?
A 会社に対する支配力を持たない少数株主が保有する株式の経済的実質は、配当を受領する期待以外にないことを考慮しています。
解説
配当還元方式の適用可否は、株主の会社に対する支配力の有無で判定します。
会社に対する支配力の有無は、形式的には議決権割合により判定され、支配力のない株式の評価方法として、配当還元方式が適用されます(財産評価基本通達188、188−2)。
配当還元方式による株式の評価は、支配力を持たない少数株主が保有する株式の経済的実質は、配当を受領する期待以外にないことを考慮しています(平成29年8月30日東京地裁判決、平成16年3月2日東京地裁判決)。
したがって、実質的には支配力を有している株主が、相続税の負担軽減のみを目的としたスキームにより、形式的(議決権割合)には会社に対する支配力がない状況を作り出したとしても、そのスキームに経済合理性がないと当局が判断した場合には、配当還元方式の適用は否認されることになります。
非上場株式の総則6項による否認⑦-配当還元方式の適用スキームで総則6項の否認を受けた酒類等の大手卸売会社の事案を抑えずに実務を行なっていないか?
平成29年8月30日 東京地裁判決
「・・・他方で、配当還元方式は、株式の価額をその株式に係る年配当金額を還元率10%で除して計算した元本に相当する配当還元価額によって評価するものである。この方式を「同族株主以外の株主等が取得した株式」の評価方法とした趣旨は、事業経営への影響の少ない同族株主の一部や従業員株主等の少数株主においては、会社支配力が小さく、単に配当を期待するにとどまるという実情があることから、評価手続の簡便性をも考慮して、この評価方法を相当としたものと解される。そして、評価通達188は、別紙1のとおり、株主の会社支配力を測る基準として、株主及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数に占める割合に着目し、これを基として配当還元方式が適用される「同族株主以外の株主等が取得した株式」の範囲を具体的に定めている。」
平成16年3月2日 東京地裁判決
「・・・評価通達188−2項は、このような原則的な評価手法の例外として、「同族株主以外の株主等」(評価通達188項)が取得した大会社の株式については、配当還元方式によって評価することを定めている。当該通達の趣旨は、通常、いわゆる同族会社においては、会社経営等について同族株主以外の株主の意向はほとんど反映されずに事業への影響力を持たないことから、その株式を保有する株主の持つ経済的実質が、当面は配当を受領するという期待以外に存しないということを考慮するものということができる。そして、客観的に当該会社への支配力を備えているものか否かという点で当該株式の評価額に差異が生じることには合理性があるといえるから、当該通達は、こうした趣旨において合理的な株式の評価方法を定めるものと認められる。」
「・・・評価通達における例外的評価方法たる配当還元方式は、評価会社に対する影響力を持たず支配力がないことからその経済的機能が当面は配当への期待しか認められないと特に認められる範囲を規定して、その限りで適用されるべきものであって、その反対に、当面の経済的機能が配当への期待しか認められないわけではなく、評価会社に対する影響力を持ち支配力がある株式に対しては原則的な評価手法である類似業種比準方式が採用されるべきであるといえる。」
財産評価基本通達188(同族株主以外の株主等が取得した株式)
178≪取引相場のない株式の評価上の区分≫の「同族株主以外の株主等が取得した株式」は、次のいずれかに該当する株式をいい、その株式の価額は、次項の定めによる。(昭47直資3-16・昭53直評5外・昭58直評5外・平15課評2-15外・平18課評2-27外改正)
(1) 同族株主のいる会社の株式のうち、同族株主以外の株主の取得した株式
この場合における「同族株主」とは、課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者(法人税法施行令第4条((同族関係者の範囲))に規定する特殊の関係のある個人又は法人をいう。以下同じ。)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30%以上(その評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の50%超である会社にあっては、50%超)である場合におけるその株主及びその同族関係者をいう。
(2) 中心的な同族株主のいる会社の株主のうち、中心的な同族株主以外の同族株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの(課税時期において評価会社の役員(社長、理事長並びに法人税法施行令第71条第1項第1号、第2号及び第4号に掲げる者をいう。以下この項において同じ。)である者及び課税時期の翌日から法定申告期限までの間に役員となる者を除く。)の取得した株式
この場合における「中心的な同族株主」とは、課税時期において同族株主の1人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族(これらの者の同族関係者である会社のうち、これらの者が有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である会社を含む。)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である場合におけるその株主をいう。
(3) 同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の15%未満である場合におけるその株主の取得した株式
(4) 中心的な株主がおり、かつ、同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の15%以上である場合におけるその株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの((2)の役員である者及び役員となる者を除く。)の取得した株式
この場合における「中心的な株主」とは、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の15%以上である株主グループのうち、いずれかのグループに単独でその会社の議決権総数の10%以上の議決権を有している株主がいる場合におけるその株主をいう。
188-2(同族株主以外の株主等が取得した株式の評価)
前項の株式の価額は、その株式に係る年配当金額(183≪評価会社の1株当たりの配当金額等の計算≫の(1)に定める1株当たりの配当金額をいう。ただし、その金額が2円50銭未満のもの及び無配のものにあっては2円50銭とする。)を基として、次の算式により計算した金額によって評価する。ただし、その金額がその株式を179≪取引相場のない株式の評価の原則≫の定めにより評価するものとして計算した金額を超える場合には、179≪取引相場のない株式の評価の原則≫の定めにより計算した金額によって評価する。(昭58直評5外追加、平12課評2-4外・平18課評2-27外改正)
(注) 上記算式の「その株式に係る年配当金額」は1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の金額であるので、算式中において、評価会社の直前期末における1株当たりの資本金等の額の50円に対する倍数を乗じて評価額を計算することとしていることに留意する。