非上場株式の譲渡時の時価⑬-個人から法人への譲渡時の時価と課税が生じる場合を整理せずに実務を行っていないか?
Q 個人から法人への非上場株式の譲渡時の時価と、課税が生じる場合について教えてくれますか?
A 譲渡人(個人)の適用時価は所得税法上の時価であり、時価の1/2未満の価額で譲渡した場合には、みなし譲渡課税が生じます。一方で、譲受法人の適用時価は法人税法上の時価であり、時価よりも低い価額で株式を取得した場合には、受贈益課税が生じます(発行法人を除く)。
解説
非上場株式の評価方式について、原則的評価方式となるか、特例的評価方式となるかは会社に対する支配力の有無で決定します。つまり、原則的評価方式と特例的評価方式の株価の差額は、会社に対する支配権の価値により生じています。
個人から法人への株式譲渡では、譲渡人に適用される税務上の時価は、「所得税法上の時価」となります。所得税法上の時価が適用される場合には、同族株主に該当するか否かの議決権割合による判定時期は「株式譲渡前」です。
したがって、株式譲渡前に、譲渡人側に会社に対する支配力があるかどうかにより、時価が原則的評価方式による価額となるか、特例的評価方式による価額となるかが決定します。
一方で、譲受法人に適用される税務上の時価は、「法人税法上の時価」となります。法人税法上の時価が適用される場合には、同族株主に該当するか否かの議決権割合による判定時期は「株式譲渡後」です。
したがって、株式譲渡後に、譲受法人側に会社に対する支配力があるかどうか(会社に対する支配権の価値を享受するかどうか)により、時価が原則的評価方式による価額となるか、特例的評価方式による価額となるかが決定します。
「適用時価、株主区分の判定時期、評価方式」
譲渡人における適用時価:所得税法上の時価
譲受法人における適用時価:法人税法上の時価
譲渡人における株主区分の判定時期:株式譲渡前
譲受法人における株主区分の判定時期:株式譲渡後
譲渡人に会社支配権有:原則的評価方式(類似業種比準方式と純資産価額方式の折衷)
譲渡人に会社支配権無:特例的評価方式
譲受法人に会社支配権有:原則的評価方式(類似業種比準方式と純資産価額方式の折衷)
譲受法人に会社支配権無:特例的評価方式
「税法上の時価よりも低い価額で譲渡した場合の課税関係」
譲渡人は、株式譲渡前に、会社に対する支配権を有するにも関わらず、時価の1/2未満の価額で株式を譲渡した場合には、所得税法上の時価で譲渡したものとみなして、取得価額との差額に譲渡所得税が課税されます(所得税法第59条第1項、所得税法施行令第169条)。
一方で譲受法人は、株式譲受後に、会社に対する支配権を有する(会社支配権の価値を享受している)にも関わらず、法人税法上の時価よりも低い価額で株式を取得した場合には、譲受法人が支払った対価と、原則的評価方式による価額との差額は受贈益として、法人税が課税されます(法人税法第22条第2項)。
この場合、株式を時価よりも低額で取得したことにより、譲受法人の株式価値が増加することになるため、譲渡人から譲受法人株主への利益移転によるみなし贈与課税にも留意する必要があります(相続税法第9条)。
参考
株主への利益移転①-相続税法第7条と第9条を区別せずに実務を行っていないか?
※会社に対する支配権がない場合(特例的評価方式適用)でも、譲渡人側でのみなし譲渡課税、譲受人側での受贈益課税はありえますが、この場合には、そもそも特例的評価方式(配当還元方式)による時価で取引するケースがほとんどであり、実務上論点になることはありません。
所得税法第59条第1項(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)
第五十九条 次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす。