非上場株式の譲渡時の時価⑮-法人から個人への株式譲渡を整理せずに実務を行っていないか?

Q 法人から個人への非上場株式の譲渡時の時価と、課税が生じる場合について教えてくれますか?

A 譲渡人(法人)の適用時価は法人税法上の時価であり、時価よりも低い価額で株式を譲渡した場合には、譲渡株式の帳簿価額と時価との差額が譲渡益となり、譲渡対価と時価との差額は給与又は寄附金となります。一方で、譲受人(個人)の適用時価は所得税法上の時価であり、時価よりも低い価額で株式を取得した場合には、給与所得又は一時所得として課税が生じます。

解説
非上場株式の評価方式について、原則的評価方式となるか、特例的評価方式となるかは会社に対する支配力の有無で決定します。つまり、原則的評価方式と特例的評価方式の株価の差額は、会社に対する支配権の価値により生じています。

法人から個人への株式譲渡では、譲渡法人に適用される税務上の時価は、「法人税法上の時価」となります。法人税法上の時価が適用される場合には、同族株主に該当するか否かの議決権割合による判定時期は「株式譲渡後」です。

したがって、株式譲渡後に、譲渡法人側に会社に対する支配力があるかどうかにより、時価が原則的評価方式による価額となるか、特例的評価方式による価額となるかが決定します。

一方で、譲受人に適用される税務上の時価は、「所得税法上の時価」となります。ただし、所得税法では、譲渡人側の取扱いは所得税法第59条第1項で規定していますが、譲受人側の規定はありません。

判定時期の規定がなくても、会社に対する支配力の有無により評価方式を決定する原則から考えると、株式譲渡後に、譲受人側に会社に対する支配力があるかどうか(会社に対する支配権の価値を享受するかどうか)により、時価が原則的評価方式による価額となるか、特例的評価方式による価額となるかが決定すると考えられます。

 

「適用時価、株主区分の判定時期、評価方式」

譲渡法人における適用時価:法人税法上の時価
譲受人における適用時価:所得税法上の時価

譲渡法人における株主区分の判定時期:株式譲渡後
譲受人における株主区分の判定時期:株式譲渡後

譲渡法人に会社支配権有:原則的評価方式(類似業種比準方式と純資産価額方式の折衷)
譲渡法人に会社支配権無:特例的評価方式
譲受人に会社支配権有:原則的評価方式(類似業種比準方式と純資産価額方式の折衷)
譲受人に会社支配権無:特例的評価方式

 

「税法上の時価よりも低い価額で譲渡した場合の課税関係」

譲渡法人は、株式譲渡後に、会社に対する支配権を有するにも関わらず、時価よりも低い価額で株式を譲渡した場合には、法人税法上の時価で譲渡したものとみなして、譲渡株式の帳簿価額と時価との差額が譲渡損益となります(法人税法第22条の2第4項)。
譲渡対価と時価との差額ですが、譲受人側が会社役員であれば役員賞与となり、全額損金不算入となります(法人税法第34条第4項、法人税基本通達9-2-9(2))。譲受人側が従業員であれば給与、それ以外であれば寄附金となり、損金算入限度額を超える部分は損金算入できません(法人税法第37条第1項、第8項)。

一方で譲受人は、株式譲受後に、会社に対する支配権を有する(会社支配権の価値を享受している)にも関わらず、所得税法上の時価よりも低い価額で株式を取得した場合には、譲受人が支払った対価と、原則的評価方式による価額との差額は、譲受人の属性に応じて所得税が課税されます。
譲受人が役員・従業員であれば、給与所得課税、それ以外であれば一時所得課税となります(所得税法第34条、所得税法基本通達34−1(5))。

 

法人税法第22条の2第4項(益金の額の計算)

4 内国法人の各事業年度の資産の販売等に係る収益の額として第一項又は第二項の規定により当該事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入する金額は、別段の定め(前条第四項を除く。)があるものを除き、その販売若しくは譲渡をした資産の引渡しの時における価額又はその提供をした役務につき通常得べき対価の額に相当する金額とする。

 

法人税法第34条第4項

4 前三項に規定する給与には、債務の免除による利益その他の経済的な利益を含むものとする。

 

法人税基本通達9-2-9(2)(債務の免除による利益その他の経済的な利益)

法第34条第4項《役員給与》及び法第36条《過大な使用人給与の損金不算入》に規定する「債務の免除による利益その他の経済的な利益」とは、次に掲げるもののように、法人がこれらの行為をしたことにより実質的にその役員等(役員及び同条に規定する特殊の関係のある使用人をいう。以下9-2-10までにおいて同じ。)に対して給与を支給したと同様の経済的効果をもたらすもの(明らかに株主等の地位に基づいて取得したと認められるもの及び病気見舞、災害見舞等のような純然たる贈与と認められるものを除く。)をいう。(平19年課法2-3「二十二」により追加、平22年課法2-1「十八」により改正)

(2) 役員等に対して所有資産を低い価額で譲渡した場合におけるその資産の価額と譲渡価額との差額に相当する金額

 

法人税法第37条第1項、第8項(寄附金の損金不算入)

第三十七条 内国法人が各事業年度において支出した寄附金の額(次項の規定の適用を受ける寄附金の額を除く。)の合計額のうち、その内国法人の当該事業年度終了の時の資本金等の額又は当該事業年度の所得の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額を超える部分の金額は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

8 内国法人が資産の譲渡又は経済的な利益の供与をした場合において、その譲渡又は供与の対価の額が当該資産のその譲渡の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額に比して低いときは、当該対価の額と当該価額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は、前項の寄附金の額に含まれるものとする。

 

所得税法第34条(一時所得)
第三十四条 一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。
2 一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除し、その残額から一時所得の特別控除額を控除した金額とする。
3 前項に規定する一時所得の特別控除額は、五十万円(同項に規定する残額が五十万円に満たない場合には、当該残額)とする。

 

所得税基本通達34-1(5)(一時所得の例示)
次に掲げるようなものに係る所得は、一時所得に該当する。(昭49直所2-23、昭55直所3-19、直法6-8、平11課所4-1、平17課個2-23、課資3-5、課法8-6、課審4-113、平18課個2-18、課資3-10、課審4-114、平23課個2-33、課法9-9、課審4-46、平27課個2-8、課審5-9、平30課個2-17、課審5-1改正)

(5) 法人からの贈与により取得する金品(業務に関して受けるもの及び継続的に受けるものを除く。)