非上場株式の譲渡時の時価⑯-個人から発行法人への譲渡時の時価と課税が生じる場合を整理せずに実務を行っていないか?

Q 個人から発行法人への非上場株式の譲渡時の時価と、課税が生じる場合について教えてくれますか?

A 譲渡人(個人)の適用時価は所得税法上の時価であり、時価の1/2未満の価額で譲渡した場合には、時価で譲渡を行ったものとして、みなし譲渡課税(一部みなし配当課税)が生じます。一方で、譲受法人の適用時価は法人税法上の時価ですが、自己株式取得は資本取引であるため、時価よりも低い価額で株式を取得したとしても、課税は生じません。

解説
非上場株式の評価方式について、原則的評価方式となるか、特例的評価方式となるかは会社に対する支配力の有無で決定します。つまり、原則的評価方式と特例的評価方式の株価の差額は、会社に対する支配権の価値により生じています。

個人から発行法人への株式譲渡では、譲渡人に適用される税務上の時価は、「所得税法上の時価」となります。所得税法上の時価が適用される場合には、同族株主に該当するか否かの議決権割合による判定時期は「株式譲渡前」です。

したがって、株式譲渡前に、譲渡人側に会社に対する支配力があるかどうかにより、時価が原則的評価方式による価額となるか、特例的評価方式による価額となるかが決定します。

一方で、譲受法人に適用される税務上の時価は、「法人税法上の時価」となります。法人税法上の時価が適用される場合には、同族株主に該当するか否かの議決権割合による判定時期は「株式譲渡後」です。

したがって、株式譲渡後に、譲受法人側に会社に対する支配力があるかどうか(会社に対する支配権の価値を享受するかどうか)により、時価が原則的評価方式による価額となるか、特例的評価方式による価額となるかが決定します。

 

「適用時価、株主区分の判定時期、評価方式」

譲渡人における適用時価:所得税法上の時価
譲受法人における適用時価:法人税法上の時価

譲渡人における株主区分の判定時期:株式譲渡前
譲受法人における株主区分の判定時期:株式譲渡後

譲渡人に会社支配権有:原則的評価方式(類似業種比準方式と純資産価額方式の折衷)
譲渡人に会社支配権無:特例的評価方式
譲受法人に会社支配権有:原則的評価方式(類似業種比準方式と純資産価額方式の折衷)
譲受法人に会社支配権無:特例的評価方式

 

「税法上の時価よりも低い価額で譲渡した場合の課税関係」

譲渡人は、株式譲渡前に、会社に対する支配権を有するにも関わらず、時価の1/2未満の価額で株式を譲渡した場合には、所得税法上の時価で譲渡したものとみなして計算します(所得税法第59条第1項、所得税法施行令第169条)。

発行法人が支払った金額が、発行法人の資本金等の額のうち、譲渡株式に対応する部分の金額を超える分については、出資の払戻しとして、配当所得(みなし配当)とされますので、まず初めにみなし配当の計算を行い、譲渡対価からみなし配当部分を控除したうえで、譲渡損益の計算を行うことになります(所得税法第25条第1項第5号、租税特別措置法第37条の10第3項第5号)。

一方で譲受法人は、株式譲受後に、会社に対する支配権を有する(会社支配権の価値を享受している)にも関わらず、法人税法上の時価よりも低い価額で株式を取得した場合でも、譲受法人が支払った対価と、原則的評価方式による価額との差額に法人税は課税されません。

この場合、株式を時価よりも低額で取得したことにより、譲受法人の株式価値が増加することになるため、譲渡人から譲受法人株主への利益移転によるみなし贈与課税にも留意する必要があります(相続税法第9条)。

参考
株主への利益移転①-相続税法第7条と第9条を区別せずに実務を行っていないか?

 

※会社に対する支配権がない場合(特例的評価方式適用)でも、譲渡人側でのみなし譲渡課税、譲受人側での受贈益課税はありえますが、この場合には、そもそも特例的評価方式(配当還元方式)による時価で取引するケースがほとんどであり、実務上論点になることはありません。

 

所得税法第59条第1項(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)

第五十九条 次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす。

一 贈与(法人に対するものに限る。)又は相続(限定承認に係るものに限る。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)
二 著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。)
2 居住者が前項に規定する資産を個人に対し同項第二号に規定する対価の額により譲渡した場合において、当該対価の額が当該資産の譲渡に係る山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上控除する必要経費又は取得費及び譲渡に要した費用の額の合計額に満たないときは、その不足額は、その山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上、なかつたものとみなす。

 

所得税法施行令第169条(時価による譲渡とみなす低額譲渡の範囲)
第百六十九条 法第五十九条第一項第二号(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)に規定する政令で定める額は、同項に規定する山林又は譲渡所得の基因となる資産の譲渡の時における価額の二分の一に満たない金額とする。

 

所得税法第25条第1項第5号(配当等とみなす金額)

第二十五条 法人(法人税法第二条第六号(定義)に規定する公益法人等及び人格のない社団等を除く。以下この項において同じ。)の株主等が当該法人の次に掲げる事由により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額(同条第十二号の十五に規定する適格現物分配に係る資産にあつては、当該法人のその交付の直前の当該資産の帳簿価額に相当する金額)の合計額が当該法人の同条第十六号に規定する資本金等の額又は同条第十七号の二に規定する連結個別資本金等の額のうちその交付の基因となつた当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときは、この法律の規定の適用については、その超える部分の金額に係る金銭その他の資産は、前条第一項に規定する剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配又は金銭の分配とみなす。

五 当該法人の自己の株式又は出資の取得(金融商品取引法第二条第十六項(定義)に規定する金融商品取引所の開設する市場における購入による取得その他の政令で定める取得及び第五十七条の四第三項第一号から第三号まで(株式交換等に係る譲渡所得等の特例)に掲げる株式又は出資の同項に規定する場合に該当する場合における取得を除く。)

 

租税特別措置法第37条の10第3項第5号(一般株式等に係る譲渡所得等の課税の特例)

3 一般株式等を有する居住者又は恒久的施設を有する非居住者が、当該一般株式等につき交付を受ける次に掲げる金額(所得税法第二十五条第一項の規定に該当する部分の金額を除く。次条第三項において同じ。)及び政令で定める事由により当該一般株式等につき交付を受ける政令で定める金額は、一般株式等に係る譲渡所得等に係る収入金額とみなして、同法及びこの章の規定を適用する。

五 法人の株主等がその法人の自己の株式又は出資の取得(金融商品取引所(金融商品取引法第二条第十六項に規定する金融商品取引所をいう。次条第二項において同じ。)の開設する市場における購入による取得その他の政令で定める取得及び所得税法第五十七条の四第三項第一号から第三号までに掲げる株式又は出資の同項に規定する場合に該当する場合における取得を除く。)により交付を受ける金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額