非上場株式の譲渡時の時価⑰-法人から発行法人への譲渡時の時価と課税が生じる場合を整理せずに実務を行っていないか?

Q 法人から発行法人への非上場株式の譲渡時の時価と、課税が生じる場合について教えてくれますか?

A 譲渡法人の適用時価は法人税法上の時価であり、時価よりも低い価額で株式を譲渡した場合には、譲渡株式の帳簿価額と時価との差額が譲渡損益(一部みなし配当)となり、譲渡対価と時価との差額は寄附金となります。一方で、譲受法人の適用時価は法人税法上の時価ですが、自己株式取得は資本取引であるため、時価よりも低い価額で株式を取得したとしても、課税は生じません。

解説
非上場株式の評価方式について、原則的評価方式となるか、特例的評価方式となるかは会社に対する支配力の有無で決定します。つまり、原則的評価方式と特例的評価方式の株価の差額は、会社に対する支配権の価値により生じています。

法人から法人への株式譲渡では、譲渡法人、譲受法人に適用される税務上の時価は、いずれも「法人税法上の時価」が基準となります。法人税法上の時価が適用される場合には、同族株主に該当するか否かの議決権割合による判定時期は「株式譲渡後」です。

したがって、譲渡法人の時価は、株式譲渡後において、譲渡法人側に会社に対する支配力があるかどうかにより、時価が原則的評価方式による価額となるか、特例的評価方式による価額となるかが決定します。

一方で、譲受法人側の時価は、株式譲渡後において、譲受法人側に会社に対する支配力があるかどうか(会社に対する支配権の価値を享受するかどうか)により、時価が原則的評価方式による価額となるか、特例的評価方式による価額となるかが決定します。

 

「適用時価、株主区分の判定時期、評価方式」

譲渡法人における適用時価:法人税法上の時価
譲受法人における適用時価:法人税法上の時価

譲渡法人における株主区分の判定時期:株式譲渡後
譲受法人における株主区分の判定時期:株式譲渡後

譲渡法人に会社支配権有:原則的評価方式(類似業種比準方式と純資産価額方式の折衷)
譲渡法人に会社支配権無:特例的評価方式
譲受法人に会社支配権有:原則的評価方式(類似業種比準方式と純資産価額方式の折衷)
譲受法人に会社支配権無:特例的評価方式

 

「税法上の時価よりも低い価額で譲渡した場合の課税関係」

譲渡法人は、株式譲渡後に、会社に対する支配権を有するにも関わらず、法人税法上の時価よりも低い価額で株式を譲渡した場合には、時価で譲渡したものとして計算します(法人税法第22条の2第4項)。

発行法人が支払った金額が、発行法人の資本金等の額のうち、譲渡株式に対応する部分の金額を超える分については、出資の払戻しとされ、みなし配当とされますので、まず初めにみなし配当の計算を行い、譲渡対価からみなし配当部分を控除したうえで、譲渡損益の計算を行います(法人税法第24条第1項第5号、法人税法第61条の2条第1項第1号)。

また、受け取った対価と時価との差額は寄附金とされ、損金算入限度額を超える部分は損金算入できません(法人税法第37条第1項、第8項)。

一方で譲受法人は、株式譲受後に、会社に対する支配権を有する(会社支配権の価値を享受している)にも関わらず、法人税法上の時価よりも低い価額で株式を取得した場合でも、譲受法人が支払った対価と、原則的評価方式による価額との差額に法人税は課税されません。

 

法人税法第22条の2第4項(益金の額の計算)

4 内国法人の各事業年度の資産の販売等に係る収益の額として第一項又は第二項の規定により当該事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入する金額は、別段の定め(前条第四項を除く。)があるものを除き、その販売若しくは譲渡をした資産の引渡しの時における価額又はその提供をした役務につき通常得べき対価の額に相当する金額とする

 

第三十七条 内国法人が各事業年度において支出した寄附金の額(次項の規定の適用を受ける寄附金の額を除く。)の合計額のうち、その内国法人の当該事業年度終了の時の資本金等の額又は当該事業年度の所得の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額を超える部分の金額は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

8 内国法人が資産の譲渡又は経済的な利益の供与をした場合において、その譲渡又は供与の対価の額が当該資産のその譲渡の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額に比して低いときは、当該対価の額と当該価額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は、前項の寄附金の額に含まれるものとする。

 

法人税法第24条(配当等の額とみなす金額)

第二十四条 法人(公益法人等及び人格のない社団等を除く。以下この条において同じ。)の株主等である内国法人が当該法人の次に掲げる事由により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額(適格現物分配に係る資産にあつては、当該法人のその交付の直前の当該資産の帳簿価額に相当する金額)の合計額が当該法人の資本金等の額又は連結個別資本金等の額のうちその交付の基因となつた当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときは、この法律の規定の適用については、その超える部分の金額は、第二十三条第一項第一号又は第二号(受取配当等の益金不算入)に掲げる金額とみなす。

五 自己の株式又は出資の取得(金融商品取引法第二条第十六項(定義)に規定する金融商品取引所の開設する市場における購入による取得その他の政令で定める取得及び第六十一条の二第十四項第一号から第三号まで(有価証券の譲渡益又は譲渡損の益金又は損金算入)に掲げる株式又は出資の同項に規定する場合に該当する場合における取得を除く。)

 

法人税法第61条の2条第1項第1号(有価証券の譲渡益又は譲渡損の益金又は損金算入)

第六十一条の二 内国法人が有価証券の譲渡をした場合には、その譲渡に係る譲渡利益額(第一号に掲げる金額が第二号に掲げる金額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。)又は譲渡損失額(同号に掲げる金額が第一号に掲げる金額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。)は、第六十二条から第六十二条の五まで(合併等による資産の譲渡)の規定の適用がある場合を除き、その譲渡に係る契約をした日(その譲渡が剰余金の配当その他の財務省令で定める事由によるものである場合には、当該剰余金の配当の効力が生ずる日その他の財務省令で定める日)の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する。

一 その有価証券の譲渡の時における有償によるその有価証券の譲渡により通常得べき対価の額(第二十四条第一項(配当等の額とみなす金額)の規定により第二十三条第一項第一号又は第二号(受取配当等の益金不算入)に掲げる金額とみなされる金額がある場合には、そのみなされる金額に相当する金額を控除した金額)