非上場株式の財産評価基本通達解説⑭-株式等保有特定会社で「S1+S2」よりも純資産価額が低くなるケースを見逃していないか?
Q 株式等保有特定会社の「S1+S2」の計算において、評価対象会社に借入金等の負債が多い場合の留意点があれば教えてくれますか?
A 会社の負債はすべてS1に帰属するため、S1の純資産が債務超過となった場合でも、債務超過部分が切り捨てられて0円の評価となります(結果としてS2のみの株式評価となります)。会社全体で評価した純資産価額が債務超過とならない限り、「S1+S2」に分けて計算するよりも、分けずに計算する純資産価額の方が低くなります。
解説
株式等保有特定会社の株式評価方式は、原則として純資産価額となりますが、納税者の選択により「S1+S2」によることも認められています。
「S1+S2」は、株式等のみを保有する会社(S2)と、株式等以外の資産負債を保有する会社(S1)にそれぞれ分けて評価する方式です。
S2は株式等のみを保有する純資産価額(資産のみ)により評価し、S1は原則的評価方式(純資産価額又は会社規模に応じて類似業種比準価額、純資産価額の折衷)で評価します。
評価対象会社の負債はすべてS1の純資産に帰属しますので、借入金等の負債が多い場合には、S1の純資産が債務超過となるケースが生じますが、S1の評価としては債務超過部分が切り捨てられて0円の評価となります(結果としてS2のみの株式評価となります)。
株式等保有特定会社の原則的な株式評価方式である純資産価額であれば、株式等とそれ以外に分けることなくS1部分もS2部分も一体として純資産価額を計算しますので、仮にS1で債務超過が生じる場合であっても、S2の株式等の資産により吸収することができます。
結果として、会社全体で評価した純資産価額が債務超過とならない限り、「S1+S2」に分けて計算するよりも、分けずに計算する純資産価額の方が低く計算されることになります。
財産評価基本通達189−3 (株式等保有特定会社の株式の評価)
189-3 189((特定の評価会社の株式))の(2)の「株式等保有特定会社の株式」の価額は、185((純資産価額))の本文の定めにより計算した1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)によって評価する。この場合における当該1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)は、当該株式の取得者とその同族関係者の有する当該株式に係る議決権の合計数が株式等保有特定会社の185((純資産価額))のただし書に定める議決権総数の50%以下であるときには、上記により計算した1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)を基に同項のただし書の定めにより計算した金額とする。ただし、上記の株式等保有特定会社の株式の価額は、納税義務者の選択により、次の(1)の「S1の金額」と(2)の「S2の金額」との合計額によって評価することができる。
なお、当該株式が188((同族株主以外の株主等が取得した株式))に定める同族株主以外の株主等が取得した株式に該当する場合には、その株式の価額は、188-2((同族株主以外の株主等が取得した株式の評価))の本文の定めにより計算した金額(この金額が本項本文又はただし書の定めによって評価するものとして計算した金額を超える場合には、本項本文又はただし書(納税義務者が選択した場合に限る。)の定めにより計算した金額)によって評価する。(平2直評12外追加、平6課評2-8外・平12課評2-4外・平15課評2-15外・平18課評2-27外・平20課評2-5外・平29課評2-12外・平29課評2-46外改正)
(1) S1の金額
S1の金額は、株式等保有特定会社の株式の価額を178((取引相場のない株式の評価上の区分))の本文、179((取引相場のない株式の評価の原則))から184((類似業種比準価額の修正))まで、185((純資産価額))の本文、186((純資産価額計算上の負債))及び186-2((評価差額に対する法人税額等に相当する金額))の定めに準じて計算した金額とする。ただし、評価会社の株式が189((特定の評価会社の株式))の(1)の「比準要素数1の会社の株式」の要件(同項の(1)のかっこ書の要件を除く。)にも該当する場合には、178((取引相場のない株式の評価上の区分))の大会社、中会社又は小会社の区分にかかわらず、189-2((比準要素数1の会社の株式の評価))の定め(本文のかっこ書、ただし書のかっこ書及びなお書を除く。)に準じて計算した金額とする。これらの場合において、180((類似業種比準価額))に定める算式及び185((純資産価額))の本文に定める1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)は、それぞれ次による。
イ180((類似業種比準価額))に定める算式は、次の算式による。
(イ) 上記算式中「A」、「B」、「C」、「D」、「B」、「C」及び「D」は、180((類似業種比準価額))の定めにより、「b」、「c」及び「d」は、それぞれ次による。
「b」=183((評価会社の1株当たりの配当金額等の計算))の(1)に定める評価会社の「1株当たりの配当金額」に、直前期末以前2年間の受取配当金等の額(法人から受ける剰余金の配当(株式又は出資に係るものに限るものとし、資本金等の額の減少によるものを除く。)、利益の配当、剰余金の分配(出資に係るものに限る。)及び新株予約権付社債に係る利息の額をいう。以下同じ。)の合計額と直前期末以前2年間の営業利益の金額の合計額(当該営業利益の金額に受取配当金等の額が含まれている場合には、当該受取配当金等の額の合計額を控除した金額)との合計額のうちに占める当該受取配当金等の額の合計額の割合(当該割合が1を超える場合には1を限度とする。以下「受取配当金等収受割合」という。)を乗じて計算した金額
「c」=183((評価会社の1株当たりの配当金額等の計算))の(2)に定める評価会社の「1株当たりの利益金額」に受取配当金等収受割合を乗じて計算した金額
「d」=次の1及び2に掲げる金額の合計額(上記算式中の「D」を限度とする。)
1 183((評価会社の1株当たりの配当金額等の計算))の(3)に定める評価会社の「1株当たりの純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)」に、178((取引相場のない株式の評価上の区分))の(1)に定める総資産価額(帳簿価額によって計算した金額)のうちに占める株式等の帳簿価額の合計額の割合を乗じて計算した金額
2 直前期末における法人税法第2条((定義))第18号に規定する利益積立金額に相当する金額を直前期末における発行済株式数(1株当たりの資本金等の額が50円以外の金額である場合には、直前期末における資本金等の額を50円で除して計算した数によるものとする。)で除して求めた金額に受取配当金等収受割合を乗じて計算した金額(利益積立金額に相当する金額が負数である場合には、0とする。)
(ロ) 上記算式中の「0.7」は、178((取引相場のない株式の評価上の区分))に定める中会社の株式を評価する場合には「0.6」、同項に定める小会社の株式を評価する場合には「0.5」とする。
ロ 185((純資産価額))の本文に定める1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)は、同項本文及び186-2((評価差額に対する法人税額等に相当する金額))の「各資産」を「各資産から株式等を除いた各資産」と読み替えて計算した金額とする。
(2) S2の金額
S2の金額は、株式等の価額の合計額(相続税評価額によって計算した金額)からその計算の基とした株式等の帳簿価額の合計額を控除した場合において残額があるときは、当該株式等の価額の合計額(相続税評価額によって計算した金額)から当該残額に186-2((評価差額に対する法人税額等に相当する金額))に定める割合を乗じて計算した金額を控除し、当該控除後の金額を課税時期における株式等保有特定会社の発行済株式数で除して計算した金額とする。この場合、当該残額がないときは、当該株式等の価額の合計額(相続税評価額によって計算した金額)を課税時期における株式等保有特定会社の発行済株式数で除して計算した金額とする。