事業承継と相続実務⑤-コロナ禍で相続税の税務調査件数は減少している点を見逃していないか?

Q 直近の相続税の税務調査件数は方法を教えてくれますか?

A コロナ禍で相続税の税務調査件数は減少しています。

解説
コロナ禍前の相続税の税務調査率は9%を超えていましたが、コロナの影響をまともに受けた令和2事務年度の税務調査率は3.4%と大きく減少しています。

2021年12月に国税庁から公表された令和2年事務年度(令和2年7月~令和3年6月)の相続税の税務調査件数は、5,106件(前年比48%減)でした。

国税庁 令和2事務年度における相続税の調査等の状況
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2021/sozoku_chosa/pdf/sozoku_chosa.pdf

日経新聞でも取り上げられていました。

日本経済新聞 相続税調査件数5割減、国税庁 22億円超の申告漏れ例も
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE149CK0U1A211C2000000/

コロナ禍での税務調査率は「3.4%」です。

税務調査は、相続税申告書の提出後、早ければ1年程度で行われます。
一般的には、相続税申告書を提出してから2年前後が多いです。
(※ 相続税の時効は申告期限から5年です。)

令和2年事務年度(令和2年7月~令和3年6月)の税務調査が、平成30年事務年度(平成30年7月〜令和元年6月)の申告実績分(2年前)に対応するものと仮定して税務調査率を計算してみると、以下となります。

税務調査率「3.4%」
5,106件(令和2年事務年度(令和2年7月~令和3年6月)の税務調査件数)/149,481件(平成30年事務年度相続税申告件数)

コロナ禍前の税務調査率は「9%」を超えていました。

同様の試算で直近数年分を遡って計算すると、税務調査率は以下です。

「7.4%」(令和元年事務年度(令和元年7月~令和2年6月)
「9.1%」(平成30年事務年度(平成30年7月〜令和元年6月)
「9.4%」(平成29年事務年度(平成29年7月〜平成30年6月)

コロナ前は、「9%超」です。

コロナ禍で税務調査件数は減少せざるを得ない状況ですが、大口・悪質な事案に狙いを定めて税務調査に入っています。

国税庁 令和2事務年度における相続税の調査等の状況
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2021/sozoku_chosa/pdf/sozoku_chosa.pdf

「1 相続税の実地調査の状況」で、以下のように記載されています。

「令和2事務年度においては、新型コロナウイルス感染症の影響により、実地調査件数は大幅に減少しましたが、 大口・悪質な不正が見込まれる事案を優先して調査し、実地調査1件当たりの追徴税額は 943 万円(対前 事務年度比 147.3%)となり、過去 10 年間で最高となりました。

財産を隠し、うその申告をすれば税務調査が入ります。
無申告でも調査は入ります。

税務調査に入る先は、国税側でおかしい点を認識しています。

過去の所得税の確定申告書は税務署で保管されており、金融機関から預金の情報も把握することができます。
不動産を数多く保有しているのに、相続税申告がなかった場合には、明らかにおかしいわけです。

税務調査が入るのを、ビクビクして過ごす時間はもったいないです。

相続財産が多額であっても、「税務調査に入ってもらって、知らなかった隠し財産を発見してもらう」という姿勢で相続税申告を行う方には、税務調査が入らないケースが多いです。

納める義務のあるものは納めてしまい、次に向かった方がよいのではないでしょうか。

相続財産は授かりものであると割り切っている人ほど、自分の人生を生きている、魅力的な人だと感じます。