事業承継と相続実務⑦-相続対策に専門特化した税理士を志す魅力について見逃していることはないか?
Q 相続対策に専門特化した税理士を志す魅力を教えてくれますか?
A 今後も長期的に安定した需要のある税務分野である点です。
解説
財務省 主要国の相続税の負担率
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/property/149.pdf
世界の主要国の富裕層の中でも、日本の富裕層は、相続税負担を抑制したいニーズが非常に強いです。
世界には相続税が存在しない国もあるので、相続税負担の重い日本から海外移住する富裕層も一定程度います。
とはいえ、相続対策のために海外移住までする富裕層はごく一部ですので、日本に住み続けて相続対策を行いたいニーズが富裕層にあるわけです。
国税庁 令和2年分 相続税の申告事績の概要
https://www.nta.go.jp/about/organization/kanazawa/release/r03/sozoku_shinkoku/index.htm
被相続人数の推移をみると、令和2年分の課税対象被相続人は2,692人となっており、過去最高となっています。
今後の日本社会の高齢化の状況を考えると、相続税の課税対象者はますます増加していくはずです。
ということは、相続に知見のある税理士の需要も増加することになります。
日本の富裕層は、相続税を抑制してくれる「相続税の専門家」を求めています。
税制改正による平成27年1月1日以降の相続税の課税強化を受けて、そのニーズにさらに拍車がかかりました。
これをビジネスチャンスととらえた税理士達の多くが、看板や肩書きに「相続専門」を掲げるようになり、「相続特化型の税理士事務所」が乱立している現在の状況に至っています。
相続対策のニーズは強いのですが、相続税の申告業務は低価格競争に陥っています。
税務申告業務は、概ね知識と経験のある税理士が行えば、ミスのない限り計算結果としての税額はほとんど変わりません。
(※土地や非上場株式の財産評価など、税理士の評価スキルよる差が著しい分野もありますが・・・)。
当たり前のことですが、定型業務で高い付加価値を与えることはできないわけです。
相続を専門分野とすることを志す税理士は、どのような知識を学び、どのような経験を積むことで勝負していけばよいでしょうか?
一つの答えは、相続業務の中でも知識と経験の差が生まれやすい「相続対策コンサルティング」の分野だと思います。
定型業務ではないオーダーメイドの「コンサルティング業務」でこそ、付加価値を与えることが可能だからです。
超富裕層の相続対策においては、金額規模が1桁も2桁も大きくなります。
超富裕層は、大規模の相続対策経験が豊富である大手税理士事務所にコンサル業務を依頼する傾向があります。
自身や家族のために高い報酬を支払ってでも、大手法人に任せているという「安心感」を得るためです。
超富裕層の相続対策では、相続税の知識のみならず、法人税、所得税、組織再編税制、国際税務など、複数の税目や税制が絡んできますので、これを横断した知見が必要となることが多く、一つの案件における経験値の蓄えが大きいです。
単に相続税申告実績の多い事務所で申告書作成経験を積むよりも、総合型の税理士法人で相続対策の経験を積むことで、より幅広い経験ができ、付加価値を与えるスキルを学ぶことができると思います。