事業承継と相続実務⑩-税収不足と相続税の増税はリンクしていく点を見逃していないか?

Q 税収不足と相続税の増税が関連していると聞きましたが、教えてくれますか?

A 日本は税収不足ですので、富裕層から徴収する相続税は今後も増税が予測されます。

解説

日本では、国の財源における税収の占める割合は、約57%に過ぎません。
不足分については主に国債の発行により資金調達を行っています。

 

財務省資料 一般会計税収、歳出総額及び公債発行額の推移
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/003.pdf

 

お金を借りる(国債を買ってもらう)こと自体は「悪い」ことではありません。
お金を貸してもらうためには「信用」が必要で、日本にはそれがあるから借りられるわけです。

とはいえ、日本の債務残高は、年GDP比で約237%となっています。

GDPとは「国内総生産」のことで、一定期間内に国内で新たに生み出されたモノやサービスの付加価値です。

国内で生み出している価値に対して、日本の債務残高の大きさは顕著です。

 

財務省資料 債務残高の国際比較(対GDP比)
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/007.pdf

 

お金を借りたら返さなければいけません。
お金を借りたのに返さないことは「悪い」ことです。

借りたのはこれまでの世代ですが、返していくのはこれからの世代になります。

今後は日本の高齢化がますます進んでいき、2025年には高齢化率(65歳以上の人口割合)が30%に達します。
2065年には、約2.6人に1人が65歳以上、約3.9人に1人が75歳以上の予測です。

 

内閣府資料 令和3年版高齢社会白書(概要版)
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2021/gaiyou/pdf/1s1s.pdf

高齢化社会における社会保障費のさらなる増加、現役世代の人口減少を考えると、税収を増やさなければ、どう考えても国の借入は返せないと思います

 

富裕層の事業承継、資産承継に関する相続対策は、将来的にもニーズが継続すると思います。

日本に相続税がある限り、相続対策業務はなくなりません。
高齢者の貯蓄が多く、さらに高齢者の増加が予測される日本で、高齢富裕層から税金を徴収する「相続税」という税目をなくすことは、あり得ないと思います。
相続税の制度変更が行われたとしても、なくなること、税負担が減少していくことはなく、税負担は増加していくでしょう。

高齢富裕層には、相続税を抑制したいニーズが強くあります。
相続税の課税対象者を増やす方向、増税の方向に改正された場合、高齢富裕層の相続税抑制ニーズは、ますます高まっていくことになります。

事業承継や資産承継に絡んだ相続対策は、将来的にもニーズの高い分野となるはずですので、この分野で独立する税理士は、今後さらに増えていくと思います。

富裕層の目線で考えると、保有する資産規模が多いほど、経験豊富な大手税理士法人に相続対策を任せることになると思います。
個人税理士に任せると、取扱う金額の規模の大きさから、失敗したときに責任が取れないと考えるでしょうし、個人税理士が亡くなった場合の対応にも困ります。

富裕層はブランド価値への信頼も高く、一生に一度の相続対策に大手税理士法人の安心感を求めるはずです。