非上場会社の従業員持株会④-従業員持株会(任意組合方式)が株主名簿上で一人株主として記載される理由をガイドラインに書いてあるからと整理していないか? 2021年6月20日
Q従業員持株会の株主名簿上は「○○従業員持株会 理事長●●」のようになっていますが、持株会員全員の記載とならない理由を教えていただけますか?
A株式が理事長に管理信託されて、受託者である理事長名義で一括管理されているためです。
解説
従業員持株会制度は出資者である従業員が共同の事業を営む約束をする契約により、民法上の組合として設立されることが一般的です(民法第667条)。組合は契約に基づく個人の集合体であり、組合財産である株式は各組合員の共有財産となります。従業員持株会では株式は組合の理事長に管理信託され、受託者である理事長名義で一括管理され、会社からの通知も理事長に対してのみに行われます(会社法第126条第3項第4項)。また、株主名簿上は「○○従業員持株会 理事長●●」のように記載されることになります。
議決権行使については、各従業員の持分に応じた指図に基づき理事長が一括行使しますが(会社法第106条)、議決権の不統一行使は可能です(会社法第313条)。ただし、実務上は従業員が不統一行使の指図をすることは考えづらく、従業員は株主総会に参加することはできないため、議決権行使は理事長一任となり、取締役会等の意思に沿った議決権行使となることがほとんどであると考えられます。
日本証券業協会の「持株制度に関するガイドライン」においては、従業員持株会が一人株主として認められるための要件として以下3点が挙げられていますが、法令上の整理ではなく、あくまでもガイドラインにおける整理となります。
① 取得株式は理事長名義とすること。
② 議決権は理事長が行使すること(不統一行使を妨げない。)。
③ 配当金は、これを受領する権利が確定する日における会員の持分に応じて拠出されるものとし、理事長が一括して受領し、管理すること。
民法第667条(組合契約)
組合契約は、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生ずる。
2 出資は、労務をその目的とすることができる。
会社法第106条(共有者による権利の行使)
株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。
会社法第126条(株主に対する通知等)
株式会社が株主に対してする通知又は催告は、株主名簿に記載し、又は記録した当該株主の住所(当該株主が別に通知又は催告を受ける場所又は連絡先を当該株式会社に通知した場合にあっては、その場所又は連絡先)にあてて発すれば足りる。
2 前項の通知又は催告は、その通知又は催告が通常到達すべきであった時に、到達したものとみなす。
3 株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、株式会社が株主に対してする通知又は催告を受領する者一人を定め、当該株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければならない。この場合においては、その者を株主とみなして、前二項の規定を適用する。
4 前項の規定による共有者の通知がない場合には、株式会社が株式の共有者に対してする通知又は催告は、そのうちの一人に対してすれば足りる。
5 前各項の規定は、第二百九十九条第一項(第三百二十五条において準用する場合を含む。)の通知に際して株主に書面を交付し、又は当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供する場合について準用する。この場合において、第二項中「到達したもの」とあるのは、「当該書面の交付又は当該事項の電磁的方法による提供があったもの」と読み替えるものとする。
会社法第313条(議決権の不統一行使)
株主は、その有する議決権を統一しないで行使することができる。
2 取締役会設置会社においては、前項の株主は、株主総会の日の三日前までに、取締役会設置会社に対してその有する議決権を統一しないで行使する旨及びその理由を通知しなければならない。
3 株式会社は、第一項の株主が他人のために株式を有する者でないときは、当該株主が同項の規定によりその有する議決権を統一しないで行使することを拒むことができる。
持株会制度に関するガイドライン
https://www.jsda.or.jp/shijyo/minasama/content/20201020_motikabuguideline.pdf