非上場会社の従業員持株会⑨-従業員持株会で奨励金を支給する場合に拠出金に対する比率を100%にできないと考えてないか?

Q従業員持株会を設立し、奨励金を支給しようと考えています。奨励金の設定にあたり、拠出金に対する比率を5%〜20%程度にする必要があるとアドバイスを受けましたが、拠出金と同額(100%)としたら問題はありますか?

A従業員に対する福利厚生の目的が明確で、持株会員が自由に議決権行使できるよう制度設計すれば問題ないと考えます。

解説
従業員持株会において、株式購入資金として会社から従業員に支給される奨励金について、拠出金に対する付与比率が高すぎると、株主への利益供与に当たる可能性があります(会社法第120条)。この点、昭和60年3月29日福井地裁判決では、1年半程度の期間に従業員持株会に対して合計3,475万259円を無償で供与したことが利益供与にあたるかが争われた結果、従業員に対する福利厚生の一環としてなされたにすぎず、株主の権利行使に関するものとは認められないと判示されています。
実際に、従業員に対する福利厚生の目的が明確で、持株会員が自由に議決権行使できるよう制度設計している会社において、拠出金額と同額(100%)としている上場会社も存在し、会社法違反とはされていません。
なお、上記判決では当該奨励金が株主平等原則(会社法第109条)に反するとの主張に対し、奨励金は株主たる地位に基づき支給するものではなく、従業員の地位に基づき支給するものと判示されています。

 

会社法第120条(株主等の権利の行使に関する利益の供与)
株式会社は、何人に対しても、株主の権利、当該株式会社に係る適格旧株主(第八百四十七条の二第九項に規定する適格旧株主をいう。)の権利又は当該株式会社の最終完全親会社等(第八百四十七条の三第一項に規定する最終完全親会社等をいう。)の株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与(当該株式会社又はその子会社の計算においてするものに限る。以下この条において同じ。)をしてはならない。
2 株式会社が特定の株主に対して無償で財産上の利益の供与をしたときは、当該株式会社は、株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与をしたものと推定する。株式会社が特定の株主に対して有償で財産上の利益の供与をした場合において、当該株式会社又はその子会社の受けた利益が当該財産上の利益に比して著しく少ないときも、同様とする。
3 株式会社が第一項の規定に違反して財産上の利益の供与をしたときは、当該利益の供与を受けた者は、これを当該株式会社又はその子会社に返還しなければならない。この場合において、当該利益の供与を受けた者は、当該株式会社又はその子会社に対して当該利益と引換えに給付をしたものがあるときは、その返還を受けることができる。
4 株式会社が第一項の規定に違反して財産上の利益の供与をしたときは、当該利益の供与をすることに関与した取締役(指名委員会等設置会社にあっては、執行役を含む。以下この項において同じ。)として法務省令で定める者は、当該株式会社に対して、連帯して、供与した利益の価額に相当する額を支払う義務を負う。ただし、その者(当該利益の供与をした取締役を除く。)がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。
5 前項の義務は、総株主の同意がなければ、免除することができない。

 

会社法第109条(株主の平等)
株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、公開会社でない株式会社は、第百五条第一項各号に掲げる権利に関する事項について、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができる。
3 前項の規定による定款の定めがある場合には、同項の株主が有する株式を同項の権利に関する事項について内容の異なる種類の株式とみなして、この編及び第五編の規定を適用する。