非上場株式の評価⑨-株式移転完全親法人の配当還元価額が異常値のまま評価していないか?
Q株主が50人以上いる事業会社が、株式移転により100%親会社を設立しました。株式移転前の事業会社の配当還元価額と比較して、株式移転後の100%親会社の配当還元価額が30倍に増加しました。少数株主に多大な影響がありますが、税制上の救済措置はありますか?
Aありません。対応策を実施しましょう。
解説
株式移転完全親法人が株式移転完全子法人に完全子法人株式を譲渡(自己株式譲渡)することにより、株式移転完全親法人の資本金等の額が減少します。配当還元価額を適正水準に戻すことのみが目的であり、当該目的以外にかかる影響を最小限にとどめるために、譲渡対価を無償とします。
配当還元価額が上昇する原因は以下に示しますが、財産評価基本通達188−2では、組織再編による資本金等の額の増加が想定されていないことは明らかです。救済措置がない以上、株式移転前の事業会社の配当還元価額の水準となる株式分だけ譲渡を実行し、配当還元価額の異常値を是正しておく必要があると考えます。
(配当還元価額が上昇する原因)
財産評価基本通達188-2に則って配当還元方式の計算を行うと、1株(50円)当たりの年配当金額が2円50銭未満となる場合には2円50銭とする必要があります[これが異常値となる原因です]。株式移転完全親法人の資本金等の額は、株式移転完全子法人の簿価純資産価額となり、高額となるケースがほとんどです。したがって「1株当たり資本金等の額を50円とした場合の発行済株式数」が増加することから、配当金額(2年平均)を当該増加した発行済株式数で除すことにより、1株(50円)当たりの年配当金額が2円50銭未満となってしまいます。2円50銭未満の数値で計算すれば問題はありませんが、2円50銭として配当還元価額を計算しなければならないため、配当還元価額が上昇することになります。
(株式移転完全親法人の資本金等の額が減少する法令根拠)
内国法人が所有株式を、発行法人(完全支配関係がある他の内国法人)に対して譲渡する場合には、当該株式の譲渡損益の計上を行いません(法人税法第61条の2第1項第1号、第2号、同条第17項)。株式譲渡を行った株式移転完全親法人では、譲渡対価からみなし配当金額を控除した分だけ資本金等の額が増加し、子会社株式の取得価額は資本金等の額の減少とします(法人税法施行令第8条第1項第22号)。譲渡対価が無償であれば、子会社株式の取得価額の減少分だけ、資本金等の額が減少することとなります。
参考条文
(有価証券の譲渡益又は譲渡損の益金又は損金算入)法人税法第61条の2第1項第1号、第2号
内国法人が有価証券の譲渡をした場合には、その譲渡に係る譲渡利益額(第一号に掲げる金額が第二号に掲げる金額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。)又は譲渡損失額(同号に掲げる金額が第一号に掲げる金額を超える場合におけるその超える部分の金額をいう。)は、第六十二条から第六十二条の五まで(合併等による資産の譲渡)の規定の適用がある場合を除き、その譲渡に係る契約をした日(その譲渡が剰余金の配当その他の財務省令で定める事由によるものである場合には、当該剰余金の配当の効力が生ずる日その他の財務省令で定める日)の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入する。
一 その有価証券の譲渡の時における有償によるその有価証券の譲渡により通常得べき対価の額(第二十四条第一項(配当等の額とみなす金額)の規定により第二十三条第一項第一号又は第二号(受取配当等の益金不算入)に掲げる金額とみなされる金額がある場合には、そのみなされる金額に相当する金額を控除した金額)
二 その有価証券の譲渡に係る原価の額(その有価証券についてその内国法人が選定した一単位当たりの帳簿価額の算出の方法により算出した金額(算出の方法を選定しなかつた場合又は選定した方法により算出しなかつた場合には、算出の方法のうち政令で定める方法により算出した金額)にその譲渡をした有価証券の数を乗じて計算した金額をいう。)
第17項 内国法人が、所有株式(当該内国法人が有していた株式をいう。)を発行した他の内国法人(当該内国法人との間に完全支配関係があるものに限る。)の第二十四条第一項各号に掲げる事由(第二項の規定の適用がある合併、第四項に規定する金銭等不交付分割型分割及び第八項に規定する金銭等不交付株式分配を除く。)により金銭その他の資産の交付を受けた場合(当該他の内国法人の同条第一項第二号に掲げる分割型分割、同項第三号に掲げる株式分配、同項第四号に規定する資本の払戻し若しくは解散による残余財産の一部の分配又は口数の定めがない出資についての出資の払戻しに係るものである場合にあつては、その交付を受けた時において当該所有株式を有する場合に限る。)又は当該事由により当該他の内国法人の株式を有しないこととなつた場合(当該他の内国法人の残余財産の分配を受けないことが確定した場合を含む。)における第一項の規定の適用については、同項第一号に掲げる金額は、同項第二号に掲げる金額(第四項、第八項、次項又は第十九項の規定の適用がある場合には、これらの規定により同号に掲げる金額とされる金額)に相当する金額とする。
(資本金等の額)法人税法施行令第8条
第1項第22号 当該法人(内国法人に限る。)が法第二十四条第一項各号に掲げる事由(法第六十一条の二第二項の規定の適用がある合併、同条第四項に規定する金銭等不交付分割型分割及び同条第八項に規定する金銭等不交付株式分配を除く。以下この号及び第六項において「みなし配当事由」という。)により当該法人との間に完全支配関係がある他の内国法人から金銭その他の資産の交付を受けた場合(法第二十四条第一項第二号に掲げる分割型分割、同項第三号に掲げる株式分配、同項第四号に規定する資本の払戻し若しくは解散による残余財産の一部の分配又は口数の定めがない出資についての出資の払戻しに係るものである場合にあつては、その交付を受けた時において当該他の内国法人の株式を有する場合に限る。)又は当該みなし配当事由により当該他の内国法人の株式を有しないこととなつた場合(当該他の内国法人の残余財産の分配を受けないことが確定した場合を含む。)の当該みなし配当事由に係る同項の規定により法第二十三条第一項第一号又は第二号に掲げる金額とみなされる金額及び当該みなし配当事由(当該残余財産の分配を受けないことが確定したことを含む。)に係る法第六十一条の二第十七項の規定により同条第一項第一号に掲げる金額とされる金額の合計額から当該金銭の額及び当該資産の価額(適格現物分配に係る資産にあつては、第百二十三条の六第一項の規定により当該資産の取得価額とされる金額)の合計額を減算した金額に相当する金額(当該みなし配当事由が法第二十四条第一項第一号に掲げる合併である場合の当該合併に係る合併法人にあつては、零)
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