個人税務での勘違い防止⑨-国外転出時課税の適用を受けていない場合に、シンガポールで株式を売却した場合の日本での課税について見逃していないか?
Qシンガポールに移住する際には有価証券を1億円以上保有していませんでしたので、国外転出時課税の対象となっていません。保有している上場株式について、キャピタルゲイン非課税であるシンガポール在住中に売却することを検討していますが、日本での課税について留意事項があれば教えていただけますか?
A日本とシンガポール間の租税条約により、株式譲渡は原則として居住国のみで課税されることとなりますので、日本での課税は生じません(日星租税条約第13条第5項)。ただし、一定の場合には日本で課税される点に留意が必要です。
解説
日本国内にPE(恒久的施設)を持たない日本の非居住者が国内株式を譲渡した場合、以下の(1)〜(6)に該当する場合は、日本で課税が生じます。
(1) 買集めによる株式等の譲渡
(2) 事業譲渡類似の株式等の譲渡
(3) 税制適格ストックオプションの権利行使により取得した特定株式等の譲渡による所得
(4) 不動産関連法人の一定の株式の譲渡による所得
(5) 日本に滞在する間に行う内国法人の株式等の譲渡による所得
(6) 日本国内にあるゴルフ場の株式形態のゴルフ会員権の譲渡による所得
日星租税条約第13条第5項
1 一方の締約国の居住者が第六条に規定する不動産で他方の締約国内に存在するものの譲渡によって取得する収益に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる。
2 一方の締約国の企業が他方の締約国内に有する恒久的施設の事業用資産の一部を成す財産(不動産を除く。)の譲渡又は一方の締約国の居住者が独立の人的役務を提供するため他方の締約国内においてその用に供している固定的施設に係る財産(不動産を除く。)の譲渡から生ずる収益(単独に若しくは企業全体として行われる当該恒久的施設の譲渡又は当該固定的施設の譲渡から生ずる収益を含む。)に対しては、当該他方の締約国において租税を課することができる。ただし、この2の規定は、前条5の規定が適用される財産の譲渡から生ずる収益については、適用しない。
3 一方の締約国の居住者が国際運輸に運用する船舶又は航空機及びこれらの船舶又は航空機の運用に係る財産(不動産を除く。)の譲渡によって取得する収益に対しては、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる。
4 2の規定が適用される場合を除くほか、
(a) 一方の締約国内に存在する不動産を主要な財産とする法人の株式(公認の株式取引所において通常取引されるものを除く。)又は一方の締約国内に存在する不動産を主要な財産とする組合、信託若しくは遺産の持分の譲渡から生ずる収益に対しては、当該一方の締約国において租税を課することができる。
(b) 一方の締約国の居住者が他方の締約国の居住者である法人の株式の譲渡によって取得する収益に対しては、次のことを条件として、当該他方の締約国において租税を課することができる。
(i) 当該譲渡者が保有し又は所有する株式(当該譲渡者の特殊関係者が保有し又は所有する株式で当該譲渡者が保有し又は所有するものと合算されるものを含む。)の数が、当該課税年度中又は当該賦課年度に係る基準期間中のいかなる時点においても当該法人の株式の総数の少なくとも二十五パーセントであること。
(ii) 当該譲渡者及びその特殊関係者が当該課税年度中又は当該賦課年度に係る基準期間中に譲渡した株式の総数が、当該法人の株式の総数の少なくとも五パーセントであること。
5 1から4までに規定する財産以外の財産の譲渡から生ずる収益に対しては、譲渡者が居住者である締約国においてのみ租税を課することができる。
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https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1936.htm
国税庁HP タックスアンサーNo.2883 恒久的施設(PE)(令和元年分以後)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2883.htm