非上場株式の総則6項による否認②-株特外しスキームで総則6項の否認を受けたトステム事案を抑えずに実務を行なっていないか?

Q 総則6項による否認事案を教えていただけますか?

A 株特外しスキームを否認されたトステム事案があります。

解説
住宅建材大手のトステム(現LIXIL)創業者である会長の相続対策において、会長が保有する上場株式を、資産管理会社株式へと転換する株特外しスキームにより、財産評価額を220億円から85億円に引き下げたとされる事案があります。
会長に相続が発生し、相続人が資産管理会社株式を85億円として相続税申告を行いましたが、当局の更正処分を受けて、60億円の追徴課税を支払ったとされています。
(※新聞雑誌報道に基づくため、実際の事実関係と異なる可能性がある点はご留意ください)

 

住宅建材大手のトステム(現LIXIL)創業者である会長の相続対策(報道では2010年〜2011年とされています)

①会長がLIXILグループ株式を220億円で資産管理会社に売却
②会長が株式売却収入により金融商品を購入
③金融資産を資産管理会社へ現物出資

 

会長財産の変化
①上場株式→CASH
②CASH→金融資産
③金融資産→非上場株式

 

資産管理会社株式の財産評価のポイント
資産管理会社はLIXIL株式の購入により、総資産に占める株式の割合が50%以上となり、株式保有特定会社に該当するため、評価方法は原則、純資産価額となります。その後金融資産が現物出資されたことで、総資産に占める株式の割合が50%未満となり、株式保有特定会社から外れるため、評価方法として、類似業種比準価額が適用できます。
CASHを現物出資しても同様ですので、上記②でCASHを金融資産としたことの意味は、財産評価の観点からはありません。

 

相続税申告(2011年)
会長に相続が発生し、資産管理会社株式について、類似業種比準価額を適用した評価額である85億円として相続税を申告したところ、当局より更正処分を受け、60億円の追徴課税を受けたとされています。一部報道によると、当局は総則6項による財産評価の否認を行ううえで、大手監査法人による株価の鑑定評価額をもって時価としたとされています。
なお、納税者である相続人は不服申し立てをせず、更正処分を受け入れたとされています。

 

否認されたポイント
上場株式の売却から現物出資までの一連の取引が、相続税の負担軽減のみを目的として行われ、経済合理性のないものであると当局が判断したと考えられます。相続税法第22条の時価として、非上場株式に類似業種比準価額を適用した財産評価通達による評価は、著しく不適当と判断されたということになります。これは評価に関する否認であり、相続税法第64条の同族会社の行為計算の否認の適用ではありません。
株特外しスキームの実行から、会長の相続発生までの期間が短期間であったことも、総則6項の否認を行いやすいポイントだと考えます。

 

相続税法第22条(評価の原則)
第二十二条 この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。

 

財産評価基本通達 総則6(この通達の定めにより難い場合の評価)
この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。

 

相続税法第64条(同族会社等の行為又は計算の否認等)
第六十四条 同族会社等の行為又は計算で、これを容認した場合においてはその株主若しくは社員又はその親族その他これらの者と政令で定める特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、税務署長は、相続税又は贈与税についての更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、その認めるところにより、課税価格を計算することができる。
2 前項の規定は、同族会社等の行為又は計算につき、法人税法第百三十二条第一項(同族会社等の行為又は計算の否認)若しくは所得税法第百五十七条第一項(同族会社等の行為又は計算の否認等)又は地価税法(平成三年法律第六十九号)第三十二条第一項(同族会社等の行為又は計算の否認等)の規定の適用があつた場合における当該同族会社等の株主若しくは社員又はその親族その他これらの者と前項に規定する特別の関係がある者の相続税又は贈与税に係る更正又は決定について準用する。
3 前二項の「同族会社等」とは、法人税法第二条第十号(定義)に規定する同族会社又は所得税法第百五十七条第一項第二号に掲げる法人をいう。
4 合併、分割、現物出資若しくは法人税法第二条第十二号の五の二に規定する現物分配若しくは同条第十二号の十六に規定する株式交換等若しくは株式移転(以下この項において「合併等」という。)をした法人又は合併等により資産及び負債の移転を受けた法人(当該合併等により交付された株式又は出資を発行した法人を含む。以下この項において同じ。)の行為又は計算で、これを容認した場合においては当該合併等をした法人若しくは当該合併等により資産及び負債の移転を受けた法人の株主若しくは社員又はこれらの者と政令で定める特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、税務署長は、相続税又は贈与税についての更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、その認めるところにより、課税価格を計算することができる。
5 法人課税信託(法人税法第二条第二十九号の二に規定する法人課税信託をいう。以下この項において同じ。)の受託者又は第九条の二第一項に規定する受益者等について、前各項の規定を適用する場合には、次に定めるところによる。
一 法人課税信託の受託者については、法人税法第四条の六(法人課税信託の受託者に関するこの法律の適用)の規定により、各法人課税信託の同条第一項に規定する信託資産等及び同項に規定する固有資産等ごとに、それぞれ別の者とみなす。
二 法人税法第四条の七(受託法人等に関するこの法律の適用)の規定を準用する。
三 前二号に定めるもののほか、法人課税信託の受託者又は第九条の二第一項に規定する受益者等についての前各項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。

 

参考記事
「週刊現代」2014年12月27日号より
追徴課税「60億円」をポンと一括払い 国税が見つけた 旧トステム創業家「遺産220億円」のありか
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/41534?media=gb