非上場株式の総則6項による否認④-株特逃れスキームで総則6項の否認を受けたキーエンス事案を抑えずに実務を行なっていないか?
Q 総則6項による否認事案を教えていただけますか?
A 株特逃れスキームを否認されたキーエンス事案があります。
解説
メーカー大手のキーエンス創業者である名誉会長の相続対策において、会長が保有する転換社債を資産管理会社へ現物出資後、資産管理会社株式の評価に類似業種比準方式を適用するスキームが否認された事案があります。
名誉会長から長男への資産管理会社株式の贈与について、1,500億円の申告漏れを指摘され、300億円の追徴課税を支払ったとされています。
(※新聞雑誌報道に基づくため、実際の事実関係と異なる可能性がある点はご留意ください)
メーカー大手のキーエンス創業者である名誉会長の相続対策
1.名誉会長がキーエンス株式の17.87%を保有するティティ社の転換社債を保有(発行は約30年前)
2.名誉会長が転換社債を資産管理会社A社に現物出資し、A社株式を取得
3.A社株式の評価において、類似業種比準方式を適用して長男に贈与
会長財産の変化
転換社債(※)→資産管理会社株式
(※転換社債は、転換条件を充足すると社債から株式に転換することが可能です。現物出資により資産管理会社が保有することになったティティ社の社債は、転換条件を充足すれば、ティティ社株式に転換できるため、資産管理会社は間接的にキーエンス株式17.87%を保有できることになります。)
資産管理会社株式の財産評価のポイント
資産管理会社は転換社債の現物出資を受け、総資産の大部分を転換社債が占めることになります。株式保有特定会社に該当する場合には、評価方法は原則、純資産価額となりますが、転換社債は当時、株式保有特定会社の判定における株式に含まれていませんでした(※)。したがって、総資産に占める株式の割合が50%未満となり、株式保有特定会社に該当しないため、資産管理会社株式の評価方法として、類似業種比準価方式が適用できます。
(※その後平成29年度税制改正で、転換社債は株式保有特定会社判定上の株式等に加えられています)
贈与税申告
名誉会長から長男へ資産管理会社株式を贈与し(相続時精算課税制度の適用)、類似業種比準方式を適用した評価額で贈与税申告を行いましたが、更正処分を受け、300億円の追徴課税を受けたとされています。当局は総則6項による財産評価の否認を行い、資産管理会社の株式評価につき、実態は株式保有特定会社であるものとして、純資産価額方式又はS1+S2方式を適用したものと考えられます。
なお、納税者である相続人は不服申し立てをせず、更正処分を受け入れたとされています。
否認されたポイント
一部の情報によると、名誉会長が保有する転換社債は約30年前に発行され、権利行使期間が何度も延長されていたようです。また、資産管理会社は設立後、贈与の直前前期までは赤字が続いていたようですが、直前期に利益が計上され、比準1となることを回避しているようです。
これらの事実関係から、贈与税(相続税)の負担軽減のみを目的としたものであると当局が判断したと考えられます。相続税法第22条の時価として、非上場株式に類似業種比準価額を適用した財産評価通達による評価は、著しく不適当と判断されたということになります。
財産評価基本通達 総則6(この通達の定めにより難い場合の評価)
この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。
課税時期において評価会社の有する各資産をこの通達に定めるところにより評価した価額の合計額のうちに占める株式、出資及び新株予約権付社債(会社法第2条((定義))第22号に規定する新株予約権付社債をいう。)(189-3((株式等保有特定会社の株式の評価))において、これらを「株式等」という。)の価額の合計額(189-3((株式等保有特定会社の株式の評価))において「株式等の価額の合計額(相続税評価額によって計算した金額)」という。)の割合が50%以上である評価会社(次の(3)から(6)までのいずれかに該当するものを除く。以下「株式等保有特定会社」という。)の株式の価額は、189-3((株式等保有特定会社の株式の評価))の定めによる。
(※下線部分が、平成29年度税制改正で追加された箇所です)
参考記事
産経新聞 2016年9月17日
キーエンス創業家、1500億円申告漏れ 株贈与、300億円追徴課税 大阪国税、資産管理会社の評価減認めず
https://www.sankei.com/article/20160917-2TW62LV5SRIV5K3RFUKGT4MH3M/
「税務通信」2017年5月8日号
実例から学ぶ税務の核心〈第9回〉最近の事業承継スキーム報道を読み解く③総則6項による否認事案(その2:キーエンス事案)