非上場株式の総則6項による否認⑥-子会社への寄附による株特逃れスキームで総則6項の否認を受けたHOYA事案を抑えずに実務を行なっていないか?

Q 総則6項による否認事案を教えていただけますか?

A 株特逃れスキームを否認されたHOYA事案があります。

解説
光学機器大手のHOYA元社長の相続対策において、元社長が保有するHOYA株式を資産管理会社へ現物出資後、資産管理会社株式がHOYA株式を100%子会社に寄附し、子会社の評価に類似業種比準方式を適用する株特逃れスキームが否認された事案があります。
元社長に相続が発生し、相続人が資産管理会社株式を約20億円として相続税申告を行いましたが、当局の更正処分を受けて、約60億円の追徴課税を支払ったとされています。
(※新聞雑誌報道に基づくため、実際の事実関係と異なる可能性がある点はご留意ください)

 

光学機器大手のHOYA元社長の相続対策(2014年)

1.元社長がHOYA株式を自身の資産管理会社「エス・アイ・エヌ」(以下、S社)に現物出資
2.S社は、別の資産管理会社「ティ・ワイ・エッチ」(以下、T社)の全株式を取得して100%子会社化
3.S社が保有するHOYA株式を子会社のT社に寄附
4.T社株式の評価において、類似業種比準方式を適用

 

S社株式の財産評価のポイント

S社はHOYA株式の現物出資を受け、総資産の大部分をHOYA株式が占めることになりますが、HOYA株式を100%子会社であるT社に寄附することで、HOYA株式の保有者は子会社であるT社となります(※100%グループ間取引における寄附に課税は生じませんので、課税なくHOYA株式をS社からT社に移転できます)。
T社が株式保有特定会社に該当する場合には、評価方法は原則、純資産価額となりますが、T社は株式以外の資産を多く保有していたことが想定されます。したがって、T社の総資産に占める株式の割合が50%未満であれば、株式保有特定会社に該当しないため、T社株式の評価方法として、類似業種比準方式が適用できます。
S社が保有するT社株式の評価方法に類似業種比準方式を適用することで、T社が保有するHOYA株式の評価額はそのまま反映されないため、T社株式の保有者であるS社の株式評価額も連動して圧縮されることになります。

 

相続税申告(2015年)
元社長に相続が発生し、S社が100%保有するT社株式の評価方法に類似業種比準方式を適用することにより、S社株式の評価額を約20億円として相続税を申告したところ、当局より更正処分を受け、90億円の追徴課税を受けたとされています。
当局はT社が保有する巨額のHOYA株式の価値が反映されていないのは「著しく不適当」と判断し、総則6項の適用により、S社株式の評価額を約110億円と算定し直し、差額の約90億円を申告漏れと指摘したとされています。
なお、納税者である相続人は不服申し立てをせず、更正処分を受け入れたとされています。

 

否認されたポイント
上場株式の資産管理会社への現物出資から、100%子会社への同現物出資財産の寄附による移転までの一連の取引が、相続税の負担軽減のみを目的として行われ、経済合理性のないものであると当局が判断したと考えられます。相続税法第22条の時価として、非上場株式(100%子会社であるT社株式)に類似業種比準価額を適用した財産評価通達による評価は、著しく不適当と判断されたということになります。
株特逃れスキームの実行から、会長の相続発生までの期間が短期間であったことも、総則6項の否認を行いやすいポイントだと考えます。

 

相続税法第22条(評価の原則)

第二十二条 この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。

 

財産評価基本通達 総則6(この通達の定めにより難い場合の評価)
この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。

 

財産評価基本通達189(2)(株式等保有特定会社の株式)
課税時期において評価会社の有する各資産をこの通達に定めるところにより評価した価額の合計額のうちに占める株式、出資及び新株予約権付社債(会社法第2条((定義))第22号に規定する新株予約権付社債をいう。)(189-3((株式等保有特定会社の株式の評価))において、これらを「株式等」という。)の価額の合計額(189-3((株式等保有特定会社の株式の評価))において「株式等の価額の合計額(相続税評価額によって計算した金額)」という。)の割合が50%以上である評価会社(次の(3)から(6)までのいずれかに該当するものを除く。以下「株式等保有特定会社」という。)の株式の価額は、189-3((株式等保有特定会社の株式の評価))の定めによる。

 

参考記事
讀賣新聞オンライン 2021年4月18日
【独自】HOYA元社長遺族、遺産90億円申告漏れ…株移転で財産圧縮に国税「不適当」
https://www.yomiuri.co.jp/national/20210417-OYT1T50299/