非上場株式の総則6項による否認⑦-配当還元方式の適用スキームで総則6項の否認を受けた酒類等の大手卸売会社の事案を抑えずに実務を行なっていないか?

Q 総則6項による否認事案を教えていただけますか?

A 配当還元方式の適用スキームを否認された事案があります。

解説
酒類等の大手卸売会社の同族株主の相続対策において、父が保有する事業会社株式(約28.6%)及び不動産を資産管理会社へ現物出資後、父が取得した資産管理会社持分を取引先13社(合計52%分)に譲渡することで、資産管理会社が保有する事業会社株式の評価に配当還元方式を適用するスキームが否認された事案です。

 

酒類等の大手卸売会社の相続対策(平成2年6月8日〜平成3年12月5日)

1.父が保有する酒類等の大手卸売会社(以下、A社)の株式約28.6%、及び不動産を、自身の資産管理会社(以下、B社※有限会社)に時価を下回る低い価額で現物出資して設立(平成2年6月8日、約74億円の財産を現物出資)
2.父は取得したB社持分の52%分を取引先13社に譲渡(平成3年12月5日、売却価額:各社400万円/合計5,200万円 ※なお父は入院中)
3.B社が保有するA社株式の評価において、配当還元方式を適用かつ評価差額に対する法人税等相当額を控除(平成3年12月13日相続発生、B社株式49%分の評価額は約1億5千万円、売却代金5,200万円 ※1の時点の約2.7%の財産評価額)

 

B社持分の財産評価のポイント

父がB社へのA社株式(約28.6%)及び不動産の現物出資により取得したB社持分のうち、取引先13社に52%分を売却することで、父のB社持分の議決権割合が50%未満となることから、父にとってB社は同族関係者(財産評価基本通達188(1)、法人税法施行令第4条)ではなくなります。
B社が同族関係者でない場合、B社はA社の議決権割合が28.6%であり、財産評価基本通達を形式的に当てはめた場合、B社は同族株主以外の保有する株式として、保有するA社株式(約28.6%)に配当還元方式が適用できます。また、B社は開業後3年未満の会社であるため、純資産価額による株式評価となりますが、財産評価基本通達を形式的に当てはめた場合、時価よりも低額で現物出資を受けたA社株式及び不動産の取得価額と時価との評価差額につき、法人税等相当額を控除することができます。

 

相続税申告
父に相続が発生し、Bが約28.6%保有するA社株式の評価に配当還元方式を適用し、かつ、B社の純資産価額による評価につき、法人税等相当額を控除することにより、B社持分の評価額を約1.5億円(1株3,123円)として相続税を申告したところ、当局により否認されました。
当局は、B社が保有するA社株式は、同族株主が保有する株式の評価方式である類似業種比準方式により評価すべきであり、また、現物出資された資産の時価と帳簿価額との評価差額に対して、法人税等相当額の控除は認められないとして更正処分を行っています。
納税者は更正処分を不服として裁判となりましたが、平成16年3月2日東京地裁判決、平成17年1月19日の東京高裁判決で敗訴し、約36億円(1株75,421円)の評価額とすることが確定しています。

 

否認されたポイント
父がA社株式及び不動産をB社に時価よりも低額で現物出資してから、取得したB社持分の取引先への52%分の譲渡による移転までの一連の取引が、相続税の負担軽減のみを目的として行われ、経済合理性のないものであると当局が判断したと考えられます。形式的にB社持分の議決権割合が50%未満となったとしても、B社への同族株主による実質的な支配が継続しているにも関わらず、相続税法第22条の時価として、非上場株式(約28.6%保有するA社株式)に同族株主以外の評価方式である配当還元価額を適用した財産評価通達による評価は、著しく不適当と判断されたということになります。
配当還元方式の適用スキームの実行から、父の相続発生までの期間が短期間であったことも、総則6項の否認を行いやすいポイントだと考えます。

 

相続税法第22条(評価の原則)

第二十二条 この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。

 

財産評価基本通達 総則6(この通達の定めにより難い場合の評価)
この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。

 

財産評価基本通達188(同族株主以外の株主等が取得した株式)

178≪取引相場のない株式の評価上の区分≫の「同族株主以外の株主等が取得した株式」は、次のいずれかに該当する株式をいい、その株式の価額は、次項の定めによる。(昭47直資3-16・昭53直評5外・昭58直評5外・平15課評2-15外・平18課評2-27外改正)

(1) 同族株主のいる会社の株式のうち、同族株主以外の株主の取得した株式
この場合における「同族株主」とは、課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者(法人税法施行令第4条((同族関係者の範囲))に規定する特殊の関係のある個人又は法人をいう。以下同じ。)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30%以上(その評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の50%超である会社にあっては、50%超)である場合におけるその株主及びその同族関係者をいう。

(2) 中心的な同族株主のいる会社の株主のうち、中心的な同族株主以外の同族株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの(課税時期において評価会社の役員(社長、理事長並びに法人税法施行令第71条第1項第1号、第2号及び第4号に掲げる者をいう。以下この項において同じ。)である者及び課税時期の翌日から法定申告期限までの間に役員となる者を除く。)の取得した株式
この場合における「中心的な同族株主」とは、課税時期において同族株主の1人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族(これらの者の同族関係者である会社のうち、これらの者が有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である会社を含む。)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である場合におけるその株主をいう。

(3) 同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の15%未満である場合におけるその株主の取得した株式

(4) 中心的な株主がおり、かつ、同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の15%以上である場合におけるその株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの((2)の役員である者及び役員となる者を除く。)の取得した株式
この場合における「中心的な株主」とは、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の15%以上である株主グループのうち、いずれかのグループに単独でその会社の議決権総数の10%以上の議決権を有している株主がいる場合におけるその株主をいう。

 

財産評価基本通達188−2(同族株主以外の株主等が取得した株式の評価)
前項の株式の価額は、その株式に係る年配当金額(183≪評価会社の1株当たりの配当金額等の計算≫の(1)に定める1株当たりの配当金額をいう。ただし、その金額が2円50銭未満のもの及び無配のものにあっては2円50銭とする。)を基として、次の算式により計算した金額によって評価する。ただし、その金額がその株式を179≪取引相場のない株式の評価の原則≫の定めにより評価するものとして計算した金額を超える場合には、179≪取引相場のない株式の評価の原則≫の定めにより計算した金額によって評価する。(昭58直評5外追加、平12課評2-4外・平18課評2-27外改正)
(その株式に係る年配当金額)÷10%×(その株式の1株当たりの資本金等の額)÷50円
(注) 上記算式の「その株式に係る年配当金額」は1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の金額であるので、算式中において、評価会社の直前期末における1株当たりの資本金等の額の50円に対する倍数を乗じて評価額を計算することとしていることに留意する。

 

法人税法施行令第4条(同族関係者の範囲)

第四条 法第二条第十号(同族会社の意義)に規定する政令で定める特殊の関係のある個人は、次に掲げる者とする。

一 株主等の親族
二 株主等と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
三 株主等(個人である株主等に限る。次号において同じ。)の使用人
四 前三号に掲げる者以外の者で株主等から受ける金銭その他の資産によつて生計を維持しているもの
五 前三号に掲げる者と生計を一にするこれらの者の親族
2 法第二条第十号に規定する政令で定める特殊の関係のある法人は、次に掲げる会社とする。
一 同族会社であるかどうかを判定しようとする会社(投資法人を含む。以下この条において同じ。)の株主等(当該会社が自己の株式(投資信託及び投資法人に関する法律(昭和二十六年法律第百九十八号)第二条第十四項(定義)に規定する投資口を含む。以下同じ。)又は出資を有する場合の当該会社を除く。以下この項及び第四項において「判定会社株主等」という。)の一人(個人である判定会社株主等については、その一人及びこれと前項に規定する特殊の関係のある個人。以下この項において同じ。)が他の会社を支配している場合における当該他の会社
二 判定会社株主等の一人及びこれと前号に規定する特殊の関係のある会社が他の会社を支配している場合における当該他の会社
三 判定会社株主等の一人及びこれと前二号に規定する特殊の関係のある会社が他の会社を支配している場合における当該他の会社
3 前項各号に規定する他の会社を支配している場合とは、次に掲げる場合のいずれかに該当する場合をいう。
一 他の会社の発行済株式又は出資(その有する自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額の百分の五十を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合
二 他の会社の次に掲げる議決権のいずれかにつき、その総数(当該議決権を行使することができない株主等が有する当該議決権の数を除く。)の百分の五十を超える数を有する場合
イ 事業の全部若しくは重要な部分の譲渡、解散、継続、合併、分割、株式交換、株式移転又は現物出資に関する決議に係る議決権
ロ 役員の選任及び解任に関する決議に係る議決権
ハ 役員の報酬、賞与その他の職務執行の対価として会社が供与する財産上の利益に関する事項についての決議に係る議決権
ニ 剰余金の配当又は利益の配当に関する決議に係る議決権
三 他の会社の株主等(合名会社、合資会社又は合同会社の社員(当該他の会社が業務を執行する社員を定めた場合にあつては、業務を執行する社員)に限る。)の総数の半数を超える数を占める場合
4 同一の個人又は法人(人格のない社団等を含む。以下同じ。)と第二項に規定する特殊の関係のある二以上の会社が、判定会社株主等である場合には、その二以上の会社は、相互に同項に規定する特殊の関係のある会社であるものとみなす。
5 法第二条第十号に規定する政令で定める場合は、同号の会社の株主等(その会社が自己の株式又は出資を有する場合のその会社を除く。)の三人以下並びにこれらと同号に規定する政令で定める特殊の関係のある個人及び法人がその会社の第三項第二号イからニまでに掲げる議決権のいずれかにつきその総数(当該議決権を行使することができない株主等が有する当該議決権の数を除く。)の百分の五十を超える数を有する場合又はその会社の株主等(合名会社、合資会社又は合同会社の社員(その会社が業務を執行する社員を定めた場合にあつては、業務を執行する社員)に限る。)の総数の半数を超える数を占める場合とする。
6 個人又は法人との間で当該個人又は法人の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者がある場合には、当該者が有する議決権は当該個人又は法人が有するものとみなし、かつ、当該個人又は法人(当該議決権に係る会社の株主等であるものを除く。)は当該議決権に係る会社の株主等であるものとみなして、第三項及び前項の規定を適用する。

 

参考判例
平成16年3月2日東京地裁判決
平成17年1月19日の東京高裁判決