非上場株式の総則6項による否認⑨-同族株主以外の株主であっても配当還元方式の適用が否認された事案を見逃していないか?

Q 総則6項による否認事案を教えていただけますか?

A 同族株主以外の株主であっても、配当還元方式の適用を否認された事案があります。

解説
ベンチャービジネス投資会社への出資者は、同族株主以外の株主であるという点で、財産評価基本通達における配当還元方式の適用が可能な株主でした。ただし、本事案で特徴的だったのは、出資者が当該株式の売却を希望するときは、純資産価額による買取保障がなされていた点です。
そのような状況で出資者に相続が発生し、相続人が当該株式に配当還元方式を適用して相続税を申告したところ、「当該株式を処分した場合に実現することが確実と見込まれる金額(時価)である純資産価額方式により計算した金額が相続税評価額である」として、当局に否認された事案です。

 

配当還元適用スキームと純資産価額での買取保障

投資会社は出資希望者に対し、株式公開された場合には、出資者はキャピタルゲインが得られること、並びに、出資者は常に少数株主となることから、出資者の所有する株式は、相続税及び贈与税の課税価格計算上、配当還元方式で評価できるため、節税になることを説明していた。

投資会社株式の売却を希望する場合、関連会社で買い取るなどの方法により必ず希望に応じることを保障していた。また、その際の買取価額は、原則として取引日の前月末現在における投資会社の純資産価額であることを出資申込の際に説明していた。

出資希望者の資産状況から、自己資金あるいは借入金によりいくら出資できるかを検討して出資額を決定し、出資金額を出資時の前月末現在の時価純資産価額で除して、出資可能株式数を算出して増資を行っていた。

投資会社の議決権の50%以上を保有する会社(以下、A社)を別途存在させておき、出資者が配当還元方式を適用できる状況を作り出していた。出資者への増資によりA社が50%未満となる場合には、劣後株式を発行し、A社がそのすべてを引き受けることで、A社が議決権を50%以上保有する状態を維持していた。

 

投資会社株式の財産評価のポイント

A社が必ず議決権の50%以上を保有する同族株主となることから、出資者は同族株主以外が取得した株式として、財産評価基本通達に当てはめると、配当還元方式が適用できます。

 

相続税申告(平成5年11月24日に相続発生)
相続が発生し、投資会社株式の評価に配当還元方式を適用して相続税を申告したところ、当局により否認されました。
当局は、配当還元方式による評価額(1株208円)は認められず、相続発生日の翌日である25日に第三者を引受人として行われた増資時の純資産価額方式に基づく評価額(1株17,223円)が妥当であるとして更正処分を行っています。
納税者は更正処分を不服として裁判となりましたが、平成11年3月25日東京地裁判決、平成12年9月28日の東京高裁判決で敗訴し、約27億円(1株17,223円)の評価額とすることが確定しています。
※配当還元方式による評価における相続税は約3億円となるのに対し、純資産価額方式による評価における相続税は約21億円となり、税額ベースでの差額は約17億円の差異となっていました。

 

否認されたポイント(判示)
取引相場のない株式の相続税法第22条に規定する時価は、株式を処分した場合に実現されることが確実と見込まれる金額ということができるところ、売却希望時に純資産価額による買取保障があり、現に相続発生日の翌日に、純資産価額方式による第三者を引受人として増資が行われていることから、同族株主以外の株主が保有する株式の時価も、増資時の時価と同額と認められる。

 

相続税法第22条(評価の原則)

第二十二条 この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。

 

財産評価基本通達 総則6(この通達の定めにより難い場合の評価)
この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。

 

財産評価基本通達188(同族株主以外の株主等が取得した株式)

178≪取引相場のない株式の評価上の区分≫の「同族株主以外の株主等が取得した株式」は、次のいずれかに該当する株式をいい、その株式の価額は、次項の定めによる。(昭47直資3-16・昭53直評5外・昭58直評5外・平15課評2-15外・平18課評2-27外改正)

(1) 同族株主のいる会社の株式のうち、同族株主以外の株主の取得した株式
この場合における「同族株主」とは、課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者(法人税法施行令第4条((同族関係者の範囲))に規定する特殊の関係のある個人又は法人をいう。以下同じ。)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30%以上(その評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の50%超である会社にあっては、50%超)である場合におけるその株主及びその同族関係者をいう。

(2) 中心的な同族株主のいる会社の株主のうち、中心的な同族株主以外の同族株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの(課税時期において評価会社の役員(社長、理事長並びに法人税法施行令第71条第1項第1号、第2号及び第4号に掲げる者をいう。以下この項において同じ。)である者及び課税時期の翌日から法定申告期限までの間に役員となる者を除く。)の取得した株式
この場合における「中心的な同族株主」とは、課税時期において同族株主の1人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族(これらの者の同族関係者である会社のうち、これらの者が有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である会社を含む。)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である場合におけるその株主をいう。

(3) 同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の15%未満である場合におけるその株主の取得した株式

(4) 中心的な株主がおり、かつ、同族株主のいない会社の株主のうち、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の15%以上である場合におけるその株主で、その者の株式取得後の議決権の数がその会社の議決権総数の5%未満であるもの((2)の役員である者及び役員となる者を除く。)の取得した株式
この場合における「中心的な株主」とは、課税時期において株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の15%以上である株主グループのうち、いずれかのグループに単独でその会社の議決権総数の10%以上の議決権を有している株主がいる場合におけるその株主をいう。

 

財産評価基本通達188−2(同族株主以外の株主等が取得した株式の評価)
前項の株式の価額は、その株式に係る年配当金額(183≪評価会社の1株当たりの配当金額等の計算≫の(1)に定める1株当たりの配当金額をいう。ただし、その金額が2円50銭未満のもの及び無配のものにあっては2円50銭とする。)を基として、次の算式により計算した金額によって評価する。ただし、その金額がその株式を179≪取引相場のない株式の評価の原則≫の定めにより評価するものとして計算した金額を超える場合には、179≪取引相場のない株式の評価の原則≫の定めにより計算した金額によって評価する。(昭58直評5外追加、平12課評2-4外・平18課評2-27外改正)
(その株式に係る年配当金額)÷10%×(その株式の1株当たりの資本金等の額)÷50円
(注) 上記算式の「その株式に係る年配当金額」は1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の金額であるので、算式中において、評価会社の直前期末における1株当たりの資本金等の額の50円に対する倍数を乗じて評価額を計算することとしていることに留意する。

 

参考判例
平成11年3月25日東京地裁判決
平成12年9月28日の東京高裁判決