分散した非上場株式の集約⑨-少数株主の相続時に相続時売渡請求条項が定款にない場合には、相続人からの強制買取は不可能と考えていないか?

Q株式が分散しており、少数株主(個人)からの株式集約を考えています。この度、買取対象株主に相続が発生しましたが、相続時売渡請求の条項が定款に定められていません。自社株式を相続人から買い取ることはできないでしょうか?

A相続後の定款変更により相続時売渡請求条項を定めて、実際に相続人から自社株式を買い取ったことが認められた判例もあるため、相続人から買い取れる可能性がないわけではありません。

解説
株主の相続時に、会社がその相続人から売渡請求を行うには定款の定めが必要ですが、定款規定の設定時期について会社法では定めがありません(会社法第174条〜177条)。そのため、少数株主の相続発生後に定款変更を行って当該規定を定めることで、会社が相続人から強制的に株式を買い取ることができる可能性はあります。実際に当該行為による強制取得が認められた判例もあります(東京地裁・平成18年12月19日決定・資料版商事法務285号154頁、抗告審の東京高裁・平成19年8月16日決定・資料版商事法務285号148頁)。しかし、少数株主保護の観点から当該行為は認められないという有力な学説もあるため、裁判となった場合に必ず認められるとは限りません。

会社法第174条(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め)
株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。
会社法第175条(売渡しの請求の決定)

株式会社は、前条の規定による定款の定めがある場合において、次条第一項の規定による請求をしようとするときは、その都度、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。

一 次条第一項の規定による請求をする株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)
二 前号の株式を有する者の氏名又は名称
2 前項第二号の者は、同項の株主総会において議決権を行使することができない。ただし、同号の者以外の株主の全部が当該株主総会において議決権を行使することができない場合は、この限りでない。
会社法第176条(売渡しの請求)
株式会社は、前条第一項各号に掲げる事項を定めたときは、同項第二号の者に対し、同項第一号の株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる。ただし、当該株式会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から一年を経過したときは、この限りでない。
2 前項の規定による請求は、その請求に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにしてしなければならない。
3 株式会社は、いつでも、第一項の規定による請求を撤回することができる。
会社法第177条(売買価格の決定)
条第一項の規定による請求があった場合には、第百七十五条第一項第一号の株式の売買価格は、株式会社と同項第二号の者との協議によって定める。
2 株式会社又は第百七十五条第一項第二号の者は、前条第一項の規定による請求があった日から二十日以内に、裁判所に対し、売買価格の決定の申立てをすることができる。
3 裁判所は、前項の決定をするには、前条第一項の規定による請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならない。
4 第一項の規定にかかわらず、第二項の期間内に同項の申立てがあったときは、当該申立てにより裁判所が定めた額をもって第百七十五条第一項第一号の株式の売買価格とする。
5 第二項の期間内に同項の申立てがないとき(当該期間内に第一項の協議が調った場合を除く。)は、前条第一項の規定による請求は、その効力を失う。
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